小誌前号への寄稿作〈表顕のプリズナー〉ではミュージシャンを主人公にした美馬亜貴子さん。今回の〈コレクティヴ・メランコリー〉には中島美音子という女性編集者が登場しまして、なんだか回を重ねるごとにご自身のキャリア(編集者/執筆業)と作品とのシンクロ率が高まっているように思えたりもしますが、いやしかし、美音子が直面した困難は決して彼女固有のイシューではなく、それこそこのコロナ禍で一般言語化した「ディスタンス」の問題だし、これをいま語るとなれば「まったくの他人事」の言葉ではないだろう...と、スイマセン、作品を拝読しながら私も自分に引きつけていろいろ考え込んでしまいました。
人気作家・盛山秀平と編集担当者・美音子の人間関係、最後まで読んでも、私はこのくらいの「ディスタンス」が妥当だと思いました。クリエイターに惚れ込んでその魅力を文章で伝えようとするライター。クリエイターとは敢えて距離を置き冷静に作品を読み解こうとする評論家。編集担当者って、そのどっちでもありそうで、でも、どっちでもないような立ち位置なのかもしれなくて。日常の雑務にかまけて「普段は詰めて考えないようにしていたこと」が、ステイホーム期間に顕在化しちゃったんだな。そんなことは仕事の場だけでなく、(ミニマムには)個人の生活でも(でかい話をすれば)世界情勢でも多々起こったなぁ、と。...それにしても、作中で(たぶん読者にも)突きつけられた──あっ、ネタバレはしたくないので、とにかく槇原敬之と岡村靖幸の名を出して盛山が美音子に問うた──大問題の答え、私もいまだにしっくり見つけ出せません。
かつて「Perfumeいいよね」と某掲示板で書いたら「でっ、誰がいいの?」と訊かれて...これの私の答えは「(3人ともと)中田ヤスタカ」なんだけど、それでは答えになってなかったようで。これが高校生のころの「キャンディーズでは誰がいいの?」なら「ランちゃんです」ですっきりだったんだけど...と意味不明で陳謝です。このへんは、きっと小誌を手にとって美馬さんの一篇を読むと、なんとなく伝わると思います!
今日はいつにも増して調子が悪そうなので「コロナが明けたらまたイヤというほど忙しくなりますから、今のうちに次に行きたいところを考えておいてくださいね」と、少しでも前向きになってもらえるよう励ましたのに、盛山は「……そうだね。コロナと俺、どっちが先に終わるかだけど……」と、こちらの気遣いを一切感知せず物騒なことを言うから、美音子は心底辟易した。月朝だぞ、勘弁してくれ。適当に話をまとめて電話を切ろうと考えた矢先、盛山が何か思い出したように「そういえばさ」と切り出してきた。
〜ウィッチンケア第11号〈コレクティヴ・メランコリー〉(P140〜P144)より引用〜
美馬亜貴子さん小誌バックナンバー掲載作品:〈ワカコさんの窓〉(第5号)/〈二十一世紀鋼鉄の女〉(第6号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈MとNの間〉(第7号)/〈ダーティー・ハリー・シンドローム〉(第8号)/〈パッション・マニアックス〉(第9号)/〈表顕のプリズナー〉(第10号)
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