2021/05/25

volume 11寄稿者&作品紹介30ナカムラクニオさん

 昨年10月に「描いてわかる 西洋絵画の教科書」(玄光社)、今年1月には「洋画家の美術史 」(光文社新書) 、そして今月は「こじらせ美術館」(ホーム社)と、アート系の著書をハイペースで上梓しているナカムラクニオさん。小誌今号への寄稿作は精神分析学者・ジグムント・フロイトへのインタビュー...えっ!? いえいえ、タイトルの〈妄想インタビュー フロイト「夢と愛の効能」〉からもわかるように「もしフロイトが生きていたら」という創作作品であります。ナカムラさんがインタビュアーとなって、フロイトに聞いてみたかった質問を投げかける。答えるのは「ナカムラさんの知識として存するフロイト」、だという。作中のフロイトが語っている生い立ちや経歴は史実そのままですが...けっこう令和の世の中でもそのまま人生相談として通じそうな仕立てになっていまして、それは質問内容が人間にとっての普遍的な命題だから。ちょっと屈折した感じの語り口なのも、こんな人だったのかもしれないなぁ、という〝リアルさ〟を漂わせています。

「愛」についてのインタビュアーとのやりとり、とくに印象的です。「愛こそが、成功を生み出すということなのでしょうか?」という質問に対し、フロイトの答えは「そうだ。それは間違いない。あらゆるものの中心に愛を置き、愛し愛されることに至上の喜びを見出せた時、幸福は訪れるものなんだ」と、自信満々に肯定。しかし、インタビュアーがさらに「愛し愛されることに喜びを見出せれば、すべての人がみな幸せになれるのでしょうか?」と問うと、「いや、そうとも限らない」...なんか、急に弱気になったようで、なぜか女性心理に関しての持論へと話題がスライドしてしまいます。あれれ、このフロイトさん、もしかしたらトラウマ的な失恋とかを内々に引き摺っていて、でもそのことが偉大な研究成果に密かに影響を及ぼしている!? みたいな深読みもできておもしろい!

終盤にはフロイト流の「幸せに生きるヒント」も開陳されています。この答えがまた含蓄があるというか、煙に巻かれるというか...読者のみなさまにおかれましては、ぜひ本編の微妙なニュアンスを楽しみつつ、各自フロイトからのヒントを解釈して、幸せな人生を邁進してほしく存じます。



──弱さを認めれば、それだけでいいと? 
フロイト その通り。「力」とは、つねに、あなた自身の弱さの中から生まれるんだ。弱さを認めることが強さだとも言える。それに幸福になる方法なんて、自分で実験してみなければわからない。一定のルールなどは存在しないんだ。弱さこそが、強い殻を作り出す。サボテンにとげがあるのは自分自身が弱いからだ。アルマジロに固い殻があるのは、弱さの裏返しなんだよ。

〜ウィッチンケア第11号〈妄想インタビュー フロイト「夢と愛の効能」〉(P184〜P188)より引用〜

ナカムラクニオさん小誌バックナンバー掲載作品:断片小説 La littérature fragmentaire(第7号/大六野礼子さんとの共作)/〈断片小説(第8号note版ウィッチンケア文庫)/〈断片小説〉(第9号))/〈断片小説 未来の本屋さん〉(第10号)

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Vol.14 Coming! 20240401

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