きっと人生のなかでも「特別な1年」の締めくくりとなった今年3月に、野村佑香さんは小誌今号への寄稿作を送ってくださいました。タイトルにもある、<32歳>の記録。なんといってもお嬢さまの誕生(おめでとうございます!)が一番大きなできごとだったでしょうが、本作からは<2016年1月に妊娠が分か>って、無事出産を体験し、また新しい日常を積み重ね始めていく...その期間の、野村さんの心の動きも克明に書き残されています。野村さんは3歳頃にはもう子役モデルで、「木曜の怪談」などのドラマに出ていたのが10歳を過ぎたあたり。いやぁ、お嬢さま、すぐにその年齢に追いついちゃいそうで、成長したら、どんな話をお母さんから聞かせてもらえるんだろう。
<女の32歳は特別>。女子高生の野村さんはそう思っていた...と作品冒頭に記しています。<バリバリに働いてマノロブラニクの9センチヒールを履きこなし、キラキラと自信に満ちてウィットに富んで聞き上手>というイメージを持っていたと。...私はハイヒールを履いたことがないのでネットで調べてみたら、すぐに「オシャレは我慢」「電車は危ない」「青竹踏みが疲れに効く」なんて言葉が出てくるし(マノロブラニクの価格にも、なるほど〜、と!)。そんな野村さんが実際の32歳になった、とある日の服装は、<アディダスのスニーカーを履き、4枚重ねの靴下にレッグウォーマーを重ね>...なによりお腹のお子さんを気遣っての姿です。
助産院での自然分娩を以前から望んでいた野村さん。ご自身の出産に対する考えかた、そして行動に移した後のさまざまな体験も、丁寧に描かれています。身体の変化や心の揺れを率直に言葉にしつつ、それでもどこか冷静な視線で語られるのは、やはり事前にしっかりと調べ、ご家族を始めとする関係者との意思疎通もできていたからなのかな、と。今後、同じような未来を、と考える人にとってよき先人のアドバイスになるんじゃないかな。
作品の最後。32歳の野村さんは、女子高生の頃の自分と心中で対話します。<大きな宝物を得た私は、少しは強くなれたんじゃないだろうか?>というポジティヴな一節が印象的でした。〝ヒールの高さ〟に象徴される価値観とは違うなにか、を手に入れた女性の飾らない言葉。野村さんの今作が多くのかたに読まれることを願っています!
妊娠8ヶ月になり、何をどう着ても、どこから見ても「妊婦」になった頃に、ようやく心が追いついた。やっと家の中でなくても妊婦としてゆったり構えられるようになったのだった。優先席はありがたく優先的に座らせてもらうし、友達の「お大事に」という言葉や気遣いも、心の底から「ありがとう」と受け取れるようになった。この頃から顔も優しく変わってきたように思う。お腹の子供には外で生きていけるように十月十日が必要だけれど、私にも、お母さんになる心の準備をするために同じくらい時間が必要だったのだな、と思う。
ウィッチンケア第8号「32歳のラプソディ イン マタニティ」(P148〜P152)より引用
https://goo.gl/kzPJpT
野村佑香さん小誌バックナンバー掲載作品
「今日もどこかの空の下」(第6号)/「物語のヒツヨウ」(第7号)
http://amzn.to/1BeVT7Y
Vol.14 Coming! 20240401
- yoichijerry
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