今年2月に「わが子に会えない 離婚後に漂流する父親たち」を上梓した西牟田靖さん。<年間20万組超が離婚する現代――。ある日、子どもたちと会えなくなってしまった父親が急増している。彼らはなぜ子どもに会えなくなったのか? 男たちが歩むそれぞれの人生を、自身も当事者であるライターが描く。>と版元(PHPエディターズ・グループ)のHPでは紹介されています。3月には文禄堂高円寺店で西牟田さんと枡野浩一さんのトークイベントも開催(伺いたかったのですが、ちょうど小誌今号の編集作業が大詰めで、残念)。私は「本と雑談ラジオ」愛聴者で、同書が紹介された回(第29回/「読んで具合悪くなった」by 枡野さん)も聞いてたのにな...。
西牟田さんの今号寄稿作は「わが子に〜」から派生した作品(小説版)、と言える内容です。同書のためにさまざまな男性を取材した西牟田さん。そのすべてを本に掲載できたわけではなく、でも、いまだに心に引っ掛かっている逸話を発表するとしたら...本作が寓話のスタイルをとっていることの意味を、ぜひ感じ取ってくださればと思います。
主人公・北風男の台詞<男は仕事、女は家を守る。夫婦の役割分担はちゃんと出来てたし円満だったんだ>。そして、その妻が実父から言われる<家を守るんがおめえの仕事ったい>という台詞。最近は「男は〜」「女は〜」ってもの言いに、センシティヴな時代になったと思いますが、ここでの「役割」とか「仕事」とかいう規範(?)からこぼれ落ちているものが原因となって、物語は波風立ちます。夫を嫌いになったわけではないが、妻には妻の〝病む理由〟があった...。
作品後半に登場するアマゾネス村、そして桜山。深く踏み入っての描写はありませんが、なんとも不気味なコミュニティです。<聞こえさえすれば、北風妻にはそう聞こえるはずの声>が、なぜ届かないのかな? 私には<わが子>がいませんが、西牟田さんの問題提起の肝は、じつはこのへんにあるんじゃないかと思いました。本作を先に読んだかたは、「わが子に〜」、そして「サイゾーウーマン」掲載の西牟田さんインタビューも、併せてぜひ、ぜひ、ご一読ください!
北風妻は娘を連れて、近くにある火の国山のそばに引っ越しをしました。二人を受け入れたのは、女ばかりが住んでいるアマゾネスという名の村でした。この村は、子どもを連れて逃げ出した母親と連れられてきた子どもたちを積極的に受け入れることで有名でした。この村は逃げようとする母親にしか見えない、秘密の場所にありました。実際に暴力を振るわれたり、振るわれたと主張する女性たちが逃げ込んだりする一方、単なる夫婦ゲンカで飛び出した女性に対して、村の女性たちは「あなたは暴力を振るわれたのよ。そうに違いないわ」と決めつけたり、「あなたの旦那さんは暴力夫よ」と毎日言って聞かせたりします。それは子どもたちにも同様で、「お父さんは悪い人ね」と毎日毎日言い聞かせました。
ウィッチンケア第8号「北風男」(P116〜P120)より引用
https://goo.gl/kzPJpT
西牟田靖さん小誌バックナンバー掲載作品
<「報い」>(第6号)/「30年後の謝罪」(第7号)
http://amzn.to/1BeVT7Y
Vol.14 Coming! 20240401
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