2017/05/20

vol.8寄稿者&作品紹介21 長谷川町蔵さん

長谷川町蔵さんの今号掲載作「三月の水」は、町田が舞台の書き下ろし〜「あたしたちの未来はきっと」(ウィッチンケア文庫 01/タバブックス刊)を読んだかたなら、きっと「あっ、あの子じゃん!」と嬉しくなるような一篇です。タイトルはElis Regina & Tom Jobim - "Aguas de Março"に由来...作中には町田天満宮が登場しまして、ここは夏祭りなどにはちょいヤンキーな地元ッ子が車座で露天の食べものをむしゃむしゃしてたりするんですが、長谷川さんの手にかかると、なんとスタイリッシュな場所に生まれ変わってしまうことか! 「住みたい町ランキング」に好影響がありそうですw。

語り手の<ぼく>の、ちょっと異界に迷い込んでしまったようなモノローグで物語は進みます。じょじょに霧(謎?)が晴れていき、えっ!? という展開は「あたしたち〜」の読後感を彷彿とさせ...って、ネタバレなしで説明するのはとてもむずかしい作品。ぜひぜひ、本編でお楽しみください!

散りばめられた数々の固有名詞が、作品のトーンを節々で調律しているように感じました。そして東京という都市の構造を、登場人物の言葉に託して描いた箇所(<鉄道の要所の駅には、それぞれターミナル駅の縮小コピーみたいな郊外の盛り場がある>等)は、今年2月に開催された長谷川さんと山内マリコさんの対談に通じるものがあります。

長谷川さんは先日、「ミュージックブックカフェ」 に出演して「あたしたち〜」の話を(聴取可能)。また「文學界」2017年5月号には「故郷に帰って、ブルーになって」という、やはりご自身の初小説集にまつわるエッセイを寄稿されています。同書を編集担当させていただいた私としては、ますますこの作品が拡張して、いずれ映像作品になればいいのに、と願っています! あの9人の女子、誰が適役なんだろう、とか思い浮かべながら。



 外に出ると、まだ三月だというのにおそろしく寒い。Tシャツ1枚のぼくは震えあがってしまった。目の前にはトラックやバスがせわしなく行き交っている。さすが東京だ。しばらく大通りを進んでいくと、そこから斜め右に入った細い舗道の方がさらに賑わっている様子が伺えて、そこが公園通りの入り口だとわかった。
 日曜の夕方の公園通りは、人波に埋め尽くされていた。マニアックなブックストアやエスニック料理のファストフード、そして雑貨店のカラフルな看板が、身振り手振りで行き交う人々を誘っているみたいだった。雑踏をかき分け、しばらく歩くと、ぼくのガールフレンドが一番行きたがっていた「109」があった。そのすぐ横にはラグジュアリーなブランドを扱う東急百貨店もある。ここがあの渋谷の中心か。しばらくの間、ぼくは感動して立ち尽くしていた。

ウィッチンケア第8号「三月の水」(P128〜P135)より引用
https://goo.gl/kzPJpT

長谷川町蔵さん小誌バックナンバー掲載作品
ビッグマックの形をした、とびきり素敵なマクドナルド」(第4号&《note版ウィッチンケア文庫》)/「プリンス・アンド・ノイズ」(第5号)/「サードウェイブ」(第6号)/「New You」(第7号)
※第5〜7号掲載作は「あたしたちの未来はきっと」(タバブックス刊)として書籍化!
http://amzn.to/1BeVT7Y

Vol.14 Coming! 20240401

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