携帯電話の修理工房に勤め、故障したスマートフォンの内部データを救出したりするのが仕事の<俺>。その<俺>の一人語りで進む美馬亜貴子さんの今号寄稿作...客観的に考えると「なんてことしてるんですか!」なのですが、しかし物語は<俺>の理屈、<俺>の正義、で佳境へと向かう。「スマホでLINE」ってつまりこういうことなんだよな、と背筋がひんやりするような内容ですが、しかし<俺>がウォッチし、歪んだ肩入れをしてしまうベテラン俳優・仙波義宏は、とても魅力的な人物として描かれています。
私も性格的に独りよがり気味なので、<俺>の理屈の組み立てかたがわかる箇所、なくもなかったです。情報入手までのプロセスはともかく、義(公)憤を感じてのアクションだったんだろうな...いや、でもそれもモノローグとして記されていることなので真に受けていいのかわからないんだけれども...読んでいる最中にどんよりした重さを感じないのは、とにかく仙波さん(とマネージャー氏)が好人物なのと、よい意味で事実関係に謎が多い(読者はずっと<俺>視点でしか物事を知り得ない)からかもしれません。
作中に登場するLINEでのやりとりが人なつっこいのも印象的でした。昨今は電話どころかメールも「コミュニケーション手段として重い」と言われているとか。私はSNSのDMでもいまだに「こんにちは。お世話になっております。改行/用件/改行。どうぞよろしくお願い致します」みたいな風にしかデジコミュできないんですが、まあ、どんなツールを使っても人間性って出ちゃうもんですね。
作品終盤に客観的な目を持った人物が登場することで、物語は急展開します。衝撃の結末はぜひ、小誌を手にとってお確かめください! ...そして美馬さんには今年2月、長谷川町蔵さんと久保憲司さんのトークショーでの司会を務めていただいたこと、あらためて感謝致します!
工房は青山にあるので、場所柄、芸能関係者の持ち込み依頼も多い。たいてい持って来るのは事務所の人なのだが、修理時に必要な委任状や写真フォルダに入った自撮りデータで持ち主がわかることがある。プライベートな情報を目にする業務なので、あのアイドルとあの俳優が付き合ってるとか、好感度タレントと言われているあの芸人が実はメンヘラ気味だとかいった秘密を知ってしまうこともしばしばだ。もちろん守秘義務があるため他言はしない。誰にだって表と裏の顔はあるし、ましてや先方はイメージを売る〝プロ〟だ。芸能人は、表では皆、唯一無二の個性を持った特別な人間のように振る舞うけれど、その実態は多くの人間が関わる〝チーム〟に近いものだということを、俺はこの仕事をするようになってから知った。
ウィッチンケア第8号「ダーティー・ハリー・シンドローム」(P138〜P143)より引用
https://goo.gl/kzPJpT
美馬亜貴子さん小誌バックナンバー掲載作品
「ワカコさんの窓」(第5号)/「二十一世紀鋼鉄の女」(第6号)/「MとNの間」(第7号)
http://amzn.to/1BeVT7Y
Vol.14 Coming! 20240401
- yoichijerry
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