2017/05/10

vol.8寄稿者&作品紹介10 かとうちあきさん

前作は帽子をかぶる話でしたが、今回はパンツを脱いだ話!! 「間男ですから」と題された小誌第8号掲載作は、かつて某元アイドルがバッシングされた状況のような、修羅場を描いた小説。主人公の「わたし」は<マンガみたいな出来事>と、泰然としていますが...。野宿界のポップアイコン・かとうちあきさんの作品は、号を重ねるごとに過激になってきていまして、いわば活火山状態!? このまま一気に突っ走って、ぜひかとうさんワールドの集大成的作品をと期待してしまうのでした。

一貫して「わたし」の視点で描かれているため、鉢合わせした2人の男の言動はいずれも、たしかにコミカルではあります。その最中に踏み込まれた田中さん、<「やっぱり、怪しいと思ってたんだ」>と、動かぬ証拠(動いていたと思いますが...)を目撃した中田さん。田中さんと中田さんはともだちで、その2人とそうゆう関係になっている「わたし」...当事者じゃん! なのになぜか「わたし」はとても冷静に2人を観察し、自分の気持ちを語り続ける、という〝そもそもなんか間違ってる〟お話でして、<三人ともわけがわからなくなっていて可笑しいのだけれど、とりあえずわたし、ここでにやにやしちゃだめってことだけはわかる>...(脱力)。

とはいえ、身勝手な「わたし」の語りには男女のドロ沼/ベタな恋愛劇的ウェットさは微塵もなく、むしろコミュニケーションにおける微妙な心理描写が印象に残りました。平時に鬱積していた人間関係上のズレが、有事になって爆発した、とでもいいますか。...繰り返しますが、主人公たる「わたし」は当事者なんです。なのにこの他人事感、あんまりでおもしろすぎる。

仲違いしてしまった田中さんと中田さんは、日を置いて一度お酒でも飲みにいったらいいのでは。そこでおたがいの「わたし」感について率直に語り合い...決して意気投合して「あの女、許さない」みたいなことにはならないと思うなぁ。っていうか「わたし」、パンツをはいて一晩熟睡したら、もう2人のことを忘れてどこかへいってしまいそうで、凄すぎ。



 しかしなぜだろう。数週間後、田中さんが思い詰めた顔をしてうちにやってきた時には、もういいや、ここはとことんやっちまえ、どんとこい。という気持ちになった。それで二度目の事に及んでいると、がたんと窓のほうから音がしたのだ。わたしの部屋はぼろアパートの一階にあり、カギをどこかに忘れた時なんかに便利だし開けるのにちょっとしたコツもいるので、立て付けの悪い窓にカギをかけていない。そのことを知っているのは中田さんしかいないはずで、そういえば「今夜ひま?」ってメールに返事もしていなかった。
 わたしは田中さんをはねのけ、胸までたくしあげていたワンピースを下し、急いで窓のほうへ向かう。状況のわからない田中さんは、憐れ、ズボンもパンツも脱いだ状態のまま、とっさにちゃぶ台に置いてあったアルミ製の丸いおぼんで股間を隠している。とても間抜けだ。まるでコントのワンシーンのよう。

ウィッチンケア第8号「間男ですから」(P060〜P065)より引用
https://goo.gl/kzPJpT

かとうちあきさん小誌バックナンバー掲載作品
台所まわりのこと」(第3号&《note版ウィッチンケア文庫》)/「コンロ」(第4号)/「カエル爆弾」(第5号)/<のようなものの実践所「お店のようなもの」>(第6号)/「似合うとか似合わないとかじゃないんです、わたしが帽子をかぶるのは」(第7号)
http://amzn.to/1BeVT7Y

Vol.14 Coming! 20240401

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