2014/05/24

vol.5寄稿者&作品紹介31 希屋の浦さん

仙台を拠点に創作活動を続けている希屋の浦さん。前号にはかなり恐い「朝の所在」を寄稿してくれましたが、今号には「奇会的純情観測」という、一目惚れについての掌編を...一目惚れ(遠い目)...中学生のころは、転校生の女の子がかわいかったりすると、それは大事件(なにかを思いだして、さらに遠い目)。

作品内の、誰が誰をどの局面でどう呼ぶのか、は県立白陽高等学校の問題だけではなく、この国の人間関係の問題でもあると思います。この国、そこんとこめんどくさい〜。石原慎太郎さんくらいに確信犯でそれをやってると(総理を現役時代に「小泉君」「純ちゃん」と呼んでた)、まあ、わかりやすいなー、と。私はそのめんどくささから逃れたくてほとんどの場合「苗字+さん」か「苗字+肩書き」か「同姓複数で識別のため名前+さん」。興味のある人の場合は周囲が「先生」を使っていてもかなりがんばって「苗字+さん」で呼びかけてみたり/興味のない場合は逆で、ひたすら波風立てぬよう周囲に同調...。これは公でもプライベートでも、あんまり変わらないです。

まあそれにしても恋愛は、個人にとってはこの国のゆくえよりも大問題だったりもしますよね。私だって「安倍総理のブレーンになんでいまだに岡崎久彦さんのような人が付いているのか?」よりも「18歳のときに手紙を出した○○(←名前呼び捨て/爆w)はなぜ返事をくれなかったのか?」のほうが大問題!? はい。

引用部分にはありませんが、澤村有也くんが清にぃに「彼女いますか?」と訊いた、その答えもなかなか深いものがあります。「付き合ってはいるけど、時折僕の片恋なんじゃないかと思うことがある」(該当箇所はP3のwords@worksに掲載)...これもまた大問題でもありまして、いったい「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」というのは...じゃなかった、澤村くんは「先輩は確実に尻に敷かれるタイプ」なんて簡単に結論づけていますが、いやいや、そんなことは自分がその立場になってから(と老爺心ながら...)。

 この春、俺と瞳子は揃って県立白陽高等学校に進学した。ちょうど入学式の時季に桜が咲いてくれて、その日のうちに俺は片恋の相手、小鳥遊芽衣子と仲良くなった。
「分かりやす」
「うるさい。俺より世を知ったようなこと言いやがって」
「まァ相手もまんざらでもないかもよー?」
 けたけた笑う瞳子に俺は蹴りを入れた。無論本気ではなく、戯れているだけである。
 瞳子が彼女のことを「メーコ」と呼ぶので、俺も便乗してそう呼んでみた。小動物みたいに目のくりくりしたメーコは動作がいちいち可愛かった。
「紫条先輩、メーコと同じ中学の出身ですよね」
 ひょうひょうとした三年生の紫条清和と話したのは、委員会でのことだった。
「それ、いい加減やめてくれないかな。僕のことは清にぃで良いから」
 優男と言うべきか、へらへらしているところがある人だ。俺は何回目かの委員会のミーティングの後に話しかけたのだった。
「慣れるまで待ってください」
「分かったよ。メーコちゃんとは確かに同じ中学出身だよ。キミは確か瞳子ちゃんのお兄さんだったよね? 彼女たちとは部活が一緒だからさ」
「はい、瞳子の兄です」
「で、なんて呼べばいい?」
「苗字でも名前でも構いませんよ」
「んじゃあ澤村くん。メーコちゃんに恋でもしてるの?」
 俺は顔が赤くなるのを感じた。
「分かりやすいなあ。確かにメーコちゃんは可愛いけどね。もう有也って呼び捨てにされてる?」
「苗字で呼ばれてます」
 気恥ずかしい。
「彼女、今、フリーなんですか」
「気になるよねえそこ。僕の知る限りフリーだよ」
 だから俺はメーコに告白しようと思った。妹に急かされ、先輩に楽しまれ。
 恋って不思議だ。


ウィッチンケア第5号「奇会的純情観測」(P214〜P217)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/80146586204/witchenkare-5-2014-4-1

Vol.14 Coming! 20240401

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