うわっ、クボケンさん、恋愛小説ではないですか!! 久保憲司さんからの原稿を受け取るときはいつもドキドキするのですが、今回はいままでと少し違った意味合いで、心ときめいてしまいました。というのも、作品内で描かれた「マサッチ」という女性が、とっても魅力的だったからです。
「僕と川崎さん」(第3号)、そして「川崎さんとカムジャタン」(第4号)...久保さんのこれまでの作品には「川崎さん」という不思議な男性が登場し、「僕」との関係性で物語が進行していました。しかし今回の「デモごっこ」では、もしかすると高円寺のデモシーンのどこかに川崎さんがいるのかもしれませんが、少なくとも作品内ではまったく姿を見せず。代わりに「僕」に寄り添っているのは、マサッチさん。「現代アートが好きな普通の女の子」と描写されていますが...そんな、キャリア20年以上の学歴のないドラッグ売人(←作中の「僕」)に、こんなにもやさしく接してくれる女性が「普通」だったら、この世界はもっと愛に満ち溢れていたかもしれず...普通じゃなく、女神さまのように私には思えました。
作品内に何度も登場するジョン&ヨーコが、僕とマサッチの関係にダブります。マサッチは自身の感受性を信じて行動する僕の、最大の理解者。そして2人が一緒なら、誰にどう思われても、きっとこの世の中を変えられる...僕とマサッチはノンポリでカッコいい若者が集まる反原発デモに参加しようと、羽根木から渋谷までタクシーで角棒や軍手やヘルメットを買いにいきます。東急ハンズとロフトのどっちに、よりダサくないデモアイテム(!?)が売っているか、なんて相談しながら...。
「オノ・ヨーコ嫌い」と言ったマサッチを、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやラ・モンテ・ヤングを引き合いに出して熱く説教する僕、というシーンには思わず笑ってしまいました。こういう男子の話を「普通の女の子」が、まともに聞いてくれる!?...やっぱりマサッチは女神さまではないかと、羨ましいくらいの恋愛指数の高さにあてられっぱなしで。
ロフトに角棒は売ってなかった。ロフトから歩いて5分の東急ハンズに行ったら、そこにはちゃんと60年代の学生運動を彷彿させるような美しい角棒が売っていた。値段はいくらだったか忘れたが、800円はしなかったような気がする。さすが、東急ハンズだと思った。
角棒を持ってもささくれが刺さらないよう、軍手も一緒に買おうと思いついたが、何事にもおしゃれなマサッチは軍手には拒否反応をしめすかな、と恐る恐る「学生運動ファッションアイテムのひとつ、軍手も買わない?」と聞いたら何一つ文句を言わなかった。
ラッキーと思った僕はすかさずヘルメットも見に行こうとしたのだが、マサッチは「ロフトの方がカッコいいの、あるんじゃない」と恐れていたことを提案してきた。「嫌だー、普通の日本的な白いヘルメットがいい。学生運動といったら、白いどこにでも売っているヘルメットでしょう。ヨーコさんもジョンもそんなヘルメットに全学連とか何とか書いているんだよ。俺も反核って書く」とダダをこねたら、彼女は僕に、家を出る前にiPhone で見せたプラスチック・オノ・エレファンツ・メモリー・バンドの映像を見せようとする。
「何だよ」という僕にマサッチは「よく見なよ」と冷めた声で答える。
ヨーコさんとジョンが被っているのは、初期の大友克洋なんかの漫画に出てくるような日本の土方ヘルメットじゃなく、NYの工事現場で被るような、ちょっと突起が出たオシャレなものだった。僕は初めて気づいた。他のメンバーは黄色とか、赤のヘルメットなんかも被っている。そりゃそうだ。ヨーコさんたちがNYでピース・コンサートをやろうとして、日本の学生運動にリスペクトを込めて彼らのマネしようと思っても、日本の工事現場のヘルメットなんか手に入るわけはない。
ウィッチンケア第5号「デモごっこ」(P082〜P088)より引用
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Vol.14 Coming! 20240401
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