2014/05/20

vol.5寄稿者&作品紹介22 江口研一さん

昨年からすっかり町田ジモティ化している私ですが、20代半ばにはニューヨークの学校に通っていたことがあり、江口研一さんの掲載作「~Money making Mount Vernon~ 僕の脳内ニューヨーク」に登場するイタリア系のピザ屋さんの逸話などは、ちょっと、かなりぐっときてしまいました。

<ぶ厚いパン・ピザが最高のごちそうだった。あれ以上テンションの上がる食べ物はない。「3インチだぜ」とTシャツが脇汗でべったりのイタリア人店員は自慢気に見せてくれた。>...口のまわりや手を汚して食べた路上ピザは、たしかにテンション上がるおいしさだった(遠い目)。ですが、たとえば作品内の<水色のプールの底に銅色の1セント硬貨>のようなエピソードは、これが10円玉でもまったく同じような時間感覚を共有できるもの。海外の話を身の丈でさらりと語る、江口さんらしい作品です。

前号に「僕はトゥーム・ツーリスト」を寄稿してくれた江口さん。今回はフィリップ・シーモア・ホフマンの訃報(今年2月)で映画「脳内ニューヨーク」を思い出し、自身が住んでいたころのマウントヴァーノンの光景を、記憶を頼りながら書(描)いています。作中に記されているように<今はグーグルマップがある>ので、思い出の場所がどうなっていたか、検証しようと思えばできる時代なんですが...なんか、野暮っすよね。Facebookであの子の近影見てが〜〜ん、みたいな。

私の脳内にも<自分が出会い、必要とした場所だけが詰まった地図>が何枚かあります。その1枚は小中学生時代の町田のものなんですが、この歳になって同じ地図上を移動して一番感じるのは、風景の変化よりも...なんと「えっ、オレ毎日こんな距離を!?」という、体力の衰え。毎日徒歩通学だった中学校、遠い遠い。家のまえの坂道、チャリンコでは息が切れて登れない。そして、体力に比例して脳内の「雑多な事柄」もぼんやりしてくれたらいいのに、こちらは「必要と判断しているもの」だけが逆に先鋭化していくようで...なんだかたいへんですわい。

 原題は『Synecdoche, New York』。シネクドキと読むその意味は堤喩。上位概念を下位概念で、また下位概念を上位概念で言い換えることを言うそうだが、よく分からない。つまり、ある一部が全体を表し、全体がある一部を表すようなこと、というそれだけで煙に巻かれるタイトルだ。さらに州都オルバニーに近いスケネタディという町の言葉遊びだというから尚更だ。演出家が自分の記憶を下に巨大スタジオの中に〝脳内ニューヨーク〟を増殖させ、中の人間はリアルに人生を演じ/生きていく究極のリアリティーを描く映画の一部はヨンカーズで撮影されたという。マンハッタンの北の郊外、ハドソン川沿いにあるベッドタウンだ。近い……というのは、地図上で指の一間接分東へ辿ったマウントヴァーノンという、僕が5歳の頃から住み始めた街に近いのである。その街を想いながら、自分の脳内ニューヨークについて考えてみた。どこに住んでいたか聞かれる時、どうせ知らないだろうと思いながら「ニューヨーク」とだけ答えていた。だがニューヨークを知る人は必ず「ニューヨークのどこ?」と返ってきた。マンハッタンからブロンクスを北に越えた街はニューヨーク市の5つの地区の外だ。もちろん、そのために比較的安全でもある。「Money making Mount Vernon」そう呼ばれるほど白人富裕層の印象が強い街だ。ローリン・ヒルがソロになる前のフージーズを取材した時にも笑いながらそう言っていた。いや、待てよ。ここでも記憶の捏造されている。それは同じ日に話を聞いた、90年代のヒップホップバンド、ジャスティス・システムのジャバズかもしれない。ブルックリンの同級生でバンドを結成した彼も、子供の頃はマウントヴァーノンに住んでいたと話していた。そう、彼のおばあちゃんが住んでいたからだ。だが金持ちの街という印象にも拘らず、街は南北に分けられる。マンハッタンのグランドセントラル駅へ繋がる路線の北側には静かな山の手の住宅街が広がり、そこに白人富裕層の邸宅が並ぶ。ところが駅の南側は黒人が多く、線路を隔てただけで空気はがらりと変わる。店が立ち並び、混沌とした印象。雑多な音が耳を満たし、子供ながらにわくわくしたものだ。

ウィッチンケア第5号「~Money making Mount Vernon~ 僕の脳内ニューヨーク」(P0156〜P160)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/80146586204/witchenkare-5-2014-4-1

Vol.9 Coming! 20180401

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