ウィッチンケアはKitchenwareのアナグラムでして、名の由来のひとつは発行人が「身の丈(台所まわり)の目線で書くしか自分にはできないし〜」という小ぢんまりしたものだったりするのですが、しかし将口真明さんは今回、未来の異星での物語「葬儀、ケンタウロスαの流儀」を寄稿してくださいました。...ええ、大丈夫ですよ。台所まわり、はもちろん比喩。私も<テカポ星〜地球から四・四光年の彼方/光速の十分の一で飛ぶロケットで四四年かけて到着>を身の丈に感じて物語を書けるようになりたいです!
将口さんは2010年に「マナをめぐる冒険 魂を潤す究極のレシピ」を上梓。同作品はアマゾンの【内容説明】では<「食」こそ、人として生きるための要です。ネットワーク社会が進んだ未来世界。人として生きるために、心の救済のために、魂に滋養を与える食べ物が必要となってきます。そうなる前に、現代への食の警鐘 >とあり、通常業務で短くもなく将口さんにお世話になってきた私は、びっくりしたものです。もの書きとしての将口さんの内面には、こんなスピリチュアルな世界が広がっていたのか、と!
出版プロデューサーとしての将口さんはミリオンセラーの「ビストロSMAP」レシピシリーズを始め、数々の本を世に送り出してきました。私もライターとして少なくなくお手伝いさせてもらい...キムタクをインタビューした際にずっとボールペンを手のひらで回していたことがなぜかいまも忘れられませんw。あっ、テレビ好きな人だと、「メレンゲの気持ち」の「ありえないグランプリ」に出ていた将口さん、で覚えているかも。
そんな将口さんが抑制の効いた筆致で書き下ろした「葬儀、ケンタウロスαの流儀」もまた、食を通した死生観や文明についての物語。いつぞや打ち合わせのさいにいただいたメモには、<遠未来の世界では、死への旅立ちは人生最高のお祝い/いかに魂を燃焼させて生きたか>と書かれていました。...唐突に、現代人以外の生物のもっとも手っ取り早いアンチエイジングは代替わり、なんてことを思い出したり...。
山街ポカラには、人間の肉を調理する専門のホーリー・フーディアンズ(聖食者)と呼ばれる技術集団がいる。聖食者達は、鋭利なシルバースウォード(銀剣)を使って、死体の皮を丁寧に剥ぎ、骨の際まで刃先を入れて切り分ける。薬効のある内蔵、肝臓や心臓は、それを必要とする妊婦や老人にまわされる。肉はおおむね生で、固い部分の筋肉は煮られて食される。血は一滴たりとも無駄にされない。
何人もの聖食者が細かい作業を繰り返し、兵士の身体から剥がれた皮はあぶられ、肉はももや腹の脂肪分の多い部分は焼かれ、胸や首筋の部分は生で、皿に盛られる。血はどぶろくに混ぜられるか、酒の飲めない子ども達には山羊の乳に混ぜるかする。山街の全員が集まり、皿を回し盃を回して、戦士達の勇敢さを讃える歌を歌ったりしながら口を動かし、飲み下す。テカポ星の空を彩る、レッド・ムーン、オレンジ・ムーン、ブルー・ムーンの三つの月のうちのどれかの新月に祈りをささげながら、身体は熱くほてり、男はいつか自分が勇者として死に旅立つことを夢見る。女はいつか自分が勇者を産むことを夢見る。
海街ラハイナでは殺した敵兵、山街ポカラの兵士は喰わない。自兵同様に敵兵に敬意を払うのは同じだが、送り船と呼ばれる筏で沖合にこぎ出し、聖なるポイントで海に沈める。兵士の肉は魚たちに食され、私たちは魚を獲って喰う。勇者の肉を喰う、という意味では同じ事だ。
ウィッチンケア第5号「葬儀、ケンタウロスαの流儀」(P0110〜P116)より引用
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Vol.14 Coming! 20240401
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