2014/05/03

vol.5寄稿者&作品紹介03 我妻俊樹さん

なにしろ我妻俊樹さんの今号への寄稿作はのっけから穏やかではなく(ほんとうは私がつまらない紹介をするより作品を読んでもらうのが一番なんですけれど)、えっ!? 我妻さん、ついに世の中にコミットしますか、と驚いたものでした。原稿を受け取ったのは東京に大雪が降ったり細川/小泉連合が反原発で不発だった頃...もうずいぶん前のことのように感じますが(って毎年同じようなこと言ってる)。とにかく、冒頭も引用してみましょう。

「このところ我が社会にはさまざまな議論されるべき問題が生じている。そして現実に議論はそこかしこに巻き起こり、無数の熱意あふれる論客たちによってほとんど寝食を忘れて論争が戦わされているのだが、いっこうに出口が見えてくる気配がないのが現状である。」...これが怪談や短歌の人・我妻さんの最新作の書き出しだったのですから、思わず電話してしまいましたよ(なにを話したかは秘密)。

しかし全部読み通してみれば、今回もやはり小誌創刊号から寄稿してくださっている我妻俊樹さんの作品。「雨傘は雨の生徒」「腐葉土の底」「たたずんだり」「裸足の愛」と積み重なっってきた作品群、そろそろ1冊の本にまとまったものとして読みたいのです。たとえば「実話怪談覚書」シリーズでの我妻さんファンは、小誌で展開されている作品をどう読むのだろうか、興味津々。

そして「雨傘は雨の生徒」掲載の小誌創刊号、これまで自主流通のみでしたが、書籍コード(ISBN)が発行され書店でも入手可能になりました(978-4-86538-014-9)。こちらもぜひよろしくお願い致します。ということで、以下は小誌第5号掲載作「インテリ絶体絶命」からの引用。

 そこでエリート社会の独自のネットワークを使って調査してみたところ、ある人物の存在が視界に浮上してきた。その人物はきわめて聡明かつ情熱的だが、まだ世の中にさしてその能力を知られてはいない。彼の名前を仮に〈田母神俊雄〉としよう。彼こそはあらゆる困難な問題に解決をもたらし、すべての凡庸な議論を即刻停止して彼から直接結論を聞き出して盲目的に実践すればこの社会に革命が起きるということが誰の目にもあきらかな、真のインテリ人間なのだ。
 凡人が何億人集まって知恵を絞っても出てくるのは「東京オリンピック反対」「原発反対」「憲法改正反対」といった戯言ばかりである。まるでそうした考えがウイルスとして空中からばら撒かれたかのように大衆は一定の思想に染まり、お茶の間で茶碗を箸で叩きながら反権力の大合唱を始めてしまう……。私もエリートの一人としてそのことについてはかねがね憂いているのである。このままでは世の中は大変なことになる。
 そこで真のインテリである田母神氏に独占インタビューを敢行して冊子を作り、それを戸別に無料で郵送するなどして、我々の進むべき道を全国民に示す必要に迫られた気がしてきたため、ある朝私は会社へ向かう列車のドアが閉まる寸前に衝動的に飛び降りた。
 するとそこは、聞いたことのない駅名の掲げられたプラットホームで、周囲にはぼんやりとした視線をさまよわせる三十代くらいの男女が突っ立っていた。
 たった今電車から降りたばかりのはずなのに、こいつらは何で出口をめざして歩いていかないのだ? 私は苛立ちを覚えながら人々の間をまるで海底の海草の森をかきわけるかのように避けながら階段を目指した。なぜか階段もまた似たような表情の男女の群集に埋められており、非常に歩くのが困難である。


ウィッチンケア第5号「インテリ絶体絶命」(P020〜P028)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/80146586204/witchenkare-5-2014-4-1

Vol.8 Coming! 20170401

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