2022/04/27

VOL.12寄稿者&作品紹介04 武田徹さん

 小誌第2号からの寄稿者である武田徹さんと、今号での原稿やりとりで楽しいことがあったので、書き留めておきたいと思います。武田さんと私とは年齢がひとつ違い。なので過ごしてきた時代の共通認識みたいなものも多いと思っています。でも、時折「あれっ?」と感じることが、これまでにもありました。たとえば高校時代、武田さんの周囲でははっぴいえんどやムーンライダーズがごく普通に聞かれていたような...(あくまでやりとりからの推測)。私の周囲といえば、キャンディーズと矢沢永吉だったな。はっぴいえんどやムーンライダーズを聞いてるやつは皆無。この環境の違いがなにに起因するかは深掘りしませんが...それはともかく、武田さんの今号寄稿作はオートバイについての一篇で、送られてきたお原稿の序盤にこんな一節があったのです。「大学ではフランス文学界隈をうろついていたので、マンディアルグの『オートバイ』を読んだ。19歳の若き人妻レベッカが、革のライディング・スーツに身体を押し込み、ドイツに住む恋人に会うためにハーレー・ダビッドソンを駆る物語だ」。



大学で「フランス文学界隈をうろつい」たことなど皆無だった私は、返信に「私、オートバイの似合うかっこいい女性といったら峰不二子しか思い浮かびません」みたいなことを脊髄反射で書きそうになったのですが、そこはぐっと堪え、まずそのAndré Paul Édouard Pieyre de Mandiarguesについてググってみました。楽しかったのはここからでして、なんと、「19歳の若き人妻レベッカ」と峰不二子が、ジャン=リュック・ゴダールやマリアンヌ・フェイスフルや鈴木慶一やおおすみ正秋を介してだんだん繋がってきた(興味を持った方はぜひ調べてみてください)。ホント、自分のワールドに閉じ籠もらず他者と協業してみる醍醐味ですね。小誌をつくることで私の視界はずいぶん広がったと思っています(関わってくださるみなさまに感謝!)。それにしても、年齢差1なのに、なぜ武田さんはレベッカに辿り着き、私は峰不二子までなのか...これも、深掘りはしませんとも。

武田さんが自動車雑誌「NAVI」の編集者だったことは存じ上げていましたが、今作を読んで、バイクに対してもこれほど愛着を持っていたことに驚きました。私はかろうじてクルマを運転するものの、メカ的なことにはまったく疎くて...そういえば武田さん、1990年代半ばには『メディアとしてのワープロ 電子化された日本語がもたらしたもの』という著書があったり、同じ頃に上梓した『知の探偵術 情報はいかに作られるか』では足で操作できるカセットデッキを仕事に取り入れていたり、もともとメカニックに強いんだ...なんてことも思い出して、作中で語られているバイクの車種や形状についての話もストンと胸に落ちました。ジョン・ケージ見たさに軽井沢までバイクを飛ばした等々、おそらく他誌では開陳しない逸話が詰まった武田さんの今号寄稿作。ぜひ多くの方に読んでいただきたいと思います!



 RZは2ストロークなので排気量の割には加速力があり、峠道では400キラーと言われていたが、自分とは無縁の話だった。ただ、何度か遠出を繰り返すうちにバイクの面白さが少しずつ分かってきたような気がした。山の中のつづら折れの道を走っていて、日があたっているところは暖かく感じ、日が陰ったところに入るとすっと温度が下がる。速度によって空気を圧縮して走っているので温度が積分される。バイクは感覚増幅装置なのだと思った。
 マンディアルグが描いたラストシーンも、バイクによって増幅拡張された神経系が想像上の死に触れたものだったのだろう。豊かな感性の持ち主(私のことではない)がバイクに乗れば、普段は経験できない、もうひとつの世界を感じることも確かにできそうだった。

〜ウィッチンケア第12号〈レベッカに魅せられて〉(P020〜P023)より引用〜

武田徹さん小誌バックナンバー掲載作品:〈終わりから始まりまで。〉(第2号)/〈お茶ノ水と前衛〉(第3号)/〈木蓮の花〉(第4号)/〈カメラ人類の誕生〉(第5号)/〈『末期の眼』から生まれる言葉〉(第6号&《note版ウィッチンケア文庫》〉/〈「寄る辺なさ」の確認〉(第7号)/〈宇多田ヒカルと日本語リズム〉(第8号)/〈『共同幻想論』がdisったもの〉(第9号)〈詩の言葉──「在ること」〉(第10号)/日本語の曖昧さと「無私」の言葉〉(第11号)

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Vol.14 Coming! 20240401

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