私(←発行人)はいまだに紙の朝日新聞を定期購読していまして、さすがにここ数年は「デジタルでもいいかな」と思ってはいるんですが、それでも長年の習性で朝、ポストから新聞を出して拡げるわけでして、とくに土曜の朝は少し寝坊気味にパサパサと頁を繰って、書評欄で書評委員・トミヤマユキコさんの名前を見つけるのが楽しみです。トミヤマさん、毎回セレクトも小粋なんですが、とにかくオススメの一文が小気味よい。たとえば今月(2022年4月)は『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』と『わたしが先生の「ロリータ」だったころ』を紹介していますが、前者では“ドンキとレヴィ=ストロースって一体どんな組み合わせだよ、と思った人にこそ読んで欲しい。「言われてみれば確かに」となるから”、そして後者では“トラウマから逃げずに向き合った労作である。気合を入れて読んで欲しい。”と。限られた字数の紹介文なのに、こんなインフルエンシヴ(!?)なフレーズを投げられたら、「お、おう。読むか」となるよな〜。
そんなトミヤマさんの今号への寄稿作は「わたしはそろそろスピりたい」。スピってるというと、個人的にはなんとなく今号編集作業中にネットをざわつかせていた元テレビ局アナウンサーを思い浮かべてしまうんですが...それはともかく、オススメ上手なトミヤマさんのスピり方指南は示唆に富んでいます。令和になってからずっとダウナーなんですけど、みたいな、世の中と自身のメンタルの摺り合わせに手こずっている人に、ぜひ読んでいただきたい一篇。ある意味、達観した人生のアティチュードを示してくださっているようにも読めるんだけれども、でも細かく読んでみると「あれっ、この筆者って元来その方面に向かう資質があるのかも?」ってなお茶目な逸話も盛り込まれていて、いい感じです。
じつは小誌今号、新たな寄稿者も増えまして「はて、果たしてどんな1冊になるんだろうか」という“見えない”状況で編集作業をスタートさせました。しかし原稿〆切の比較的早い段階でトミヤマさん、そしてのちに紹介する小川たまかさんの作品が届き、「ああ、このお二人にトップとクローザーをお任せすると良い流れの本になるはず」と確信を持てたのでした。もちろんウィッチンケアは誰のどの寄稿作から読んでも全然OKにおもしろいんですが、もし書店で偶然見かけた、なんて方がいらっしゃいましたら、ぜひ本作からお目通しくださると嬉しく存じます!