2022/04/29

VOL.12寄稿者&作品紹介06 カツセマサヒコさん

 カツセマサヒコさんは小誌今号巻末に掲載した《参加者のVOICE》に「2022年はライター業をお休みして、小説一本でどこまでやれるか挑戦しています」とのコメントを寄せています。カツセさんが小説家としてデビュー作「明け方の若者たち」を発表したのが2020年6月。ベストセラーとなり、2021年2月には映画化の発表、11月には文庫化され、年末に映画公開(発行人はTOHOシネマズ南大沢で観賞しました)...ものすごいスピードで仕事環境が変化する中でも、自身の「この先」を見据えている姿勢が素晴らしいと思います。そんなカツセさんと私は今年2月、町田市民文学館ことばらんど主催の文学講演会「東京の端 表現の橋」で少し対談する機会があり、そのときもカツセさんは「書くこと」へのこだわり(というか執念)みたいなことを多く語っていました。会場は満員。お客さんの中にはキャリーバッグ持参の方もいて、かなり遠方からこの講演会に駆けつけたのだろうな、たぶん。ご多忙にもかかわらず、前号に引き続き小誌にご寄稿くださったこと、あらためて感謝いたします。


今号掲載作『復路、もしくは、ドライブ・ユア・カー』は、「俺(タロちゃん)」と「リョーちゃん」の車内での会話がメインの物語です。2人は小学校の同級生。久しぶりに会って昔話や近況について語り合うのですが...短くもない時間を経ての、両人の微妙なズレと共通項がきめ細やかに描かれています。私は2人の登場人物よりはるかに長い年月生きていますが、「過去の出来事」っていうやつはいまだにやっかいで、それはそっとしておくのが正解なのか蒸し返してみることもアリなのか、いまだによくわからない。忘れちゃいたいようなこともときどき思い出すし、覚えていなきゃいけないことを、もしかするともう忘れているかもしれない。...とにかく、ぜひ多くの方がこの友人同士の会話に耳(目を)傾けてくださること、発行人として願っています。

今作はタイトルに「復路」とありまして、カツセさんもツイートしていますが《前日譚的な前編》の『往路、もしくは、ドライブ・マイ(ペアレンツ)・カー』が、Sponsored by トヨタ カローラ クロスの特設サイトantenna*内にて試乗レポートともに掲載されています。ご本人曰く、併せて読むと「500倍くらい楽しめ」る、と。ぜひ、アクセスしてみてください。

★サイトへのURL
https://bit.ly/3vni50R 

★テキストへの直リンク
glider-associates.com/files/story.pdf




「ねえリョーちゃん」
「うん?」
「今更って言えばなんだけどさ」
「うん。なに?」
「もう一個いい?」
「うん」
「ヤマダリカのこと、覚えてる?」
「もちろん」
「どんくらい覚えてる?」
「え、うーん」
 ヤマダリカの、暗い顔を思い出す。ヤマダリカの汚い文字を思い出す。ヤマダリカの画鋲がたくさん刺さった上履きを思い出す。ヤマダリカのチョークの粉まみれになった机を思い出す。
「いじめてた」
「うん」
 小六の頃だった。ヤマダリカは、遅刻も多いし、鈍臭いし、服も毎日同じだし、なんだか、みんなと違うから、それで、それだけで、俺たちは、彼女を授業中とかに弄るようになって、それがどんどんエスカレートして、いつしか、あれは、弄りじゃなくて、いじめに変わっていた。
「最近、たまに、ヤマダリカに会いたくなる」
「え、タロちゃんが? なんで?」

〜ウィッチンケア第12号〈復路、もしくは、ドライブ・ユア・カー〉(P030〜P039)より引用〜

カツセマサヒコさん小誌バックナンバー掲載作品:それでも殴りたい(第11号)


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https://bit.ly/3vNgnVM


Vol.14 Coming! 20240401

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