2017/05/26

vol.8寄稿者&作品紹介27 ナカムラクニオさん

前号に続き、ナカムラクニオさんは今号にも断片小説を寄稿してくださいました。ナカムラさんは店主を務める荻窪のブックカフェ「6次元」をベースに、幅広い分野で活躍。昨年6月には「パラレルキャリア──新しい働き方を考えるヒント100」(晶文社刊)を上梓しましたが、その後もSNSを拝見していると、ご自身の現在進行形の興味を拡げて、そのまま仕事に繋げているよう...同書の<内容紹介>には「マキコミュニケーションを起こせ」「ツッコミビリティを大切に」「勝ち組ではなく価値組を目指す」「スローライフよりもフローライフを」といったフレーズが並んでいますが、これらだけでも感覚的に伝わるものがあるのでは(ピンときたら、ぜひ本を手にとってお確かめください!)。

ナカムラさんのツイッターを拝見すると、つい最近、ワークショップなどで長く魅力を伝えてきた金継ぎのCMが完成した、と(たしか、ミシンも購入して洋服づくりも、とつぶやいていた記憶...)。他にも「山形ビエンナーレ」での短編小説講座(のちに「ブックトープ松本」誕生のきっかけに)。「ことりっぷ」での「おさんぽ小説」連載。来月には6次元で『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』ナイト。私なんか年1冊の小誌でそうとうくたびれてますが...いや、きっと楽しんでいる人はくたびれないんです! (あっ、私も楽しんでます/くたびれながら楽しむ体質なんです←言い訳です〜)

今号に掲載した6篇も、ナカムラさんが選りすぐった言葉の結晶。<雨の匂い>にはペトリコール、ジオスミン、フェネチルアミンといった物質の名前を口にする女性が登場して<僕>を翻弄します。浅学な私はいち読者として、<僕>と同じようにそれら聞き慣れない名前に思いを馳せたりしていましたが...えっ、そんな結末に!? 400字に満たない物語での、鮮やかな場面展開が印象的です。

他にも「句読点」「冷蔵庫」「本」「コップ」が重要な〝断片〟として登場する作品が。<影愛>と題された作品はタイトルだけではちょっと想像しきれない内容? 逆に作品を読んだ後にタイトルの意味を探ってみると、描かれた世界がもう一度頭のなかでかたちづくられるような...。とにかく、私の野暮な紹介文より、ぜひぜひ、本篇を目にしていただきたいと思います!



「雨が降る前の匂いは【ペトリコール】という植物が、土の中で発する油の匂いなの。
ギリシア語で、石のエッセンスという意味なの」と彼女は言った。
雨が降る病院の喫茶店は、患者や見舞い客で溢れていた。
「はじめて知ったよ。詳しいんだね。そういうこと」と僕は答えた。
「『雨が降った後の匂い』は【ジオスミン】という土の中にある細菌が出す匂いなの」
「じゃあ、雨が降っている時の匂いは?」
「【フェネチルアミン】よ。恋愛状態の人間の脳で放出される神経伝達物質と同じなの」

ウィッチンケア第8号「断片小説」(P164〜P169)より引用
https://goo.gl/kzPJpT

ナカムラクニオさん小誌バックナンバー掲載作品
断片小説 La littérature fragmentaire」(第7号/大六野礼子さんとの共作
http://amzn.to/1BeVT7Y

Vol.14 Coming! 20240401

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