小誌第5号への寄稿作〈ワカコさんの窓〉以来、さまざまな老若男女、それも、ご自身とは“人生の距離(!?)”がありそうな主人公の物語を書いてくださっている編集者/ライターの美馬亜貴子さん。フリーランスになるまえはシンコー・ミュージック(現在はシンコーミュージック・エンタテイメント)にお勤めでした。ええと、昨年から今年にかけてはクイーンが大ブレイクしましたが、そのクイーン、さらに遡ればビートルズなどの魅力を日本でいち早く紹介していたのが、同社が発行していた「ミュージック・ライフ」の星加ルミ子、水上はるこ、東郷かおる子といった女性編集者でして、個人的にはクイーンが社会現象化したおかげで歴代の名編集者の話もたくさん聞けたのが楽しかったなぁ...って、なんでこんな話をしているかというと、その系譜に連なる美馬さん、じつは小誌でのこれまでの小説には、ミュージシャンを登場させてなかったんです(おそらく、敢えて)。それが、今号への寄稿作〈表顕のプリズナー〉では、きました! かつて「舌鋒鋭い現代音楽家」として、日本で脚光を浴びた人物が主人公です。
皇和(スメラギ・カズ)は、現在は英国の「ど田舎」・ポートメイリオンで「セミリタイア」した生活を送っています。どうも、もはや日本への執心はないようで、静かな土地でのマイペースな創作活動に励んでいました。ところが、本田禅(ゼン・ホンダ)という日本の若いミュージシャンが世界的な人気者となり、その彼が「自分が最も影響を受けたのはスメラギ・カズ」と公言したことで周囲がざわめき始め...というお話なのですが、この一篇のとても気になるところ(それはおもしろさの勘所でもある!?)は、上記のような状況設定、そしてその後の展開が、すべてスメラギ・カズのモノローグで説明されているところ。そして作者である美馬さんは、明示はしませんが、なんとなく「これはあくまでスメラギ・カズによれば、なんです」という気配を、微妙に匂わしているような筆致なのです。このへんの匙加減は、雑誌編集者として数々の個性豊かなミュージシャンにインタビューし、記事にまとめてきた経験が、存分に活かされていると推察(個人の感想です)。
作品の最後はゼン・ホンダと対談した後のスメラギ・カズの、自身のアイデンティティに関わる哲学的な問いかけで締められてます。「偏屈な人物だなぁ、でもこういう感じのミュージシャンって少なくなさそう」なんて思いながら読んでいた私にも、この最後のひとことは、けっこうズシンと響きました。みなさま、ぜひ小誌を手にとって、ゼン・ホンダの問いかけを自分の問題として考えてみてください!
「私に影響を受けたと言うけれど、それはどのような部分なんだろう? あなたの曲を聴く限りでは、共通するところはあまりないように思えるけれど」
彼ははにかみながら答えた。
「作品もそうですが、やはり全盛期にすっぱりと日本を出て、孤独と闘いながら自分の道を進んでいる姿勢に、ですね。スメラギさんのこと、僕は音楽界のサリンジャーだと思っていて」
偉大な作家を引き合いに出してくれて悪い気はしないが、それは私の作品の質とは関係がない話だ。いや、もしかしたら少しは関係しているかもしれないが、少なくともそこは肝ではない。ついでにいえば、私は孤独ではないし、仮に孤独だとしてもそれと闘ったりはしない。しかしながら、そうした齟齬にいちいち反論するのも大人気ない。
ウィッチンケア第10号〈表顕のプリズナー〉(P038〜P042)より引用
美馬亜貴子さん小誌バックナンバー掲載作品
〈ワカコさんの窓〉(第5号)/〈二十一世紀鋼鉄の女〉(第6号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈MとNの間〉(第7号)/〈ダーティー・ハリー・シンドローム〉(第8号)/〈パッション・マニアックス〉(第9号)
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Vol.14 Coming! 20240401
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