昨年6月に開催した〈ウィッチンケアのM&Lな夕べ 〜第9号発行記念イベント〜〉では総合音楽プロデューサーの大役を果たしてくださった木村重樹さん。小誌には第2号からの寄稿者でして、じつは紙媒体と併行してWeb展開している《note版ウィッチンケア文庫》での掲載作〈私が通り過ぎていった〝お店〟たち──昭和のレコ屋とロック喫茶をめぐって〉(小誌第2号への寄稿作増補改稿版)は、昨年後半からアクセス数が順調に伸び、現在ページビューNo.1。それも、他の掲載作品に数馬身の差をつけて! 内容のおもしろさもさることながら、タイトルがネット時代にフィットしていることも大きな要因かも。だって、このタイトル作と、たとえば拙作〈幻アルバム〉のふたつがスマホに表示されていて、どっち読むかって訊かれたらオレだって木村さんの作品のほうが「興味あり」ですって...。そうだ、そんな木村さんの小誌バックナンバー掲載作を加筆修正して書籍化、という話もたしか静かに進んでいるはずでして、みなさま、ぜひ御期待ください!
さて、そんな木村さんの今号への寄稿作は、サブカル版「トキワ荘の青春」とでも呼びたくなるエッセイです。昭和の終わりごろ、「当時のわたしは、ペヨトル工房という、甚はなはだ衒学趣味でマニアックな書籍や雑誌や特集ムックを出す零細出版社で編集者をしていたのだった」を過去を顧みる木村さん。そして、その木村さんに「た、大変だ! 昭和が終わっちまったァ〜!」と天皇崩御についての電話をかけてきたのが黒田一郎さん(=あの、村崎百郎)であったという(これまでご自身についてこんなにまとまったかたちで語ったこと、あったかしら?)...このころ木村さんが住んでいたのは板橋区にあった、「鉄筋3階建の細長い住宅の2階部分の窓側」。ここは「もともとそこはわたしの先輩……東京藝大美術学部の卒業生3人組が、アトリエ・仕事場兼住居として借り受けた物件」で、通称〝板橋館(いたばしやかた)〟。作品上では登場人物がアーティストの卵・M氏、批評家の卵・K氏、インド放浪の旅に出たS氏、翻訳家の卵・C氏、役者の卵・D氏などと実名を伏せて語られていますが、きっといまでは卵が孵化して「えっ、あの人のこと!?」なのだろうなぁ、と興味が尽きない青春譚です。
〝板橋館〟にはそうとう“クセのある人”が出入りしていたようで、何気に奈良美智もその一人、みたいな記述があってびっくり! そしてこの「さまざまな若者の人生交差点」には男子だけでなく、誰かの友達であったり彼女であったり、という関係性の女子も、遊びにきたり、住んだり。あっ、木村さんに関する艶っぽいエピソードが書かれていないのは...それは本作における筆者の役割が「目」なので、またいつかなにかの機会にぜひ。後半に登場する箪笥事件などは、ホント、「美大生・芸大生に物件を貸す」さいの、大家さんにとっての大事なアドバイスであります。みなさま、ぜひ小誌を手にとって、イニシャルで登場する人物を推理したりしてみてください!
ほんの半年間ほど、館の1階部分に〝謎の美人姉妹〟が住んでいた時期もあった。D君のツテで入居を希望してきたのは、20歳そこそこのN姉妹。聞くと「来年夏にはアメリカに渡って、向こうで生活する」ことを目標に、目下鶯谷のナイトクラブでホステスをして、渡米資金を貯めているのだという。館の女性住人はこれがお初だったが……そして、館の1階部分というのは、表はすぐ中山道や首都高を、昼夜を問わず無数の自動車が爆走し、隣はバイクの修理工場。騒音や排気ガスも半端なく、とても優れた住環境とは言い難かった。しかし彼女たちは目標に向けてアルバイトに精を出し、見事半年で目標額を稼ぎ出し、そそくさと館を出て、アメリカへと飛んでいった。
ある夜の11時すぎ、彼氏と思しき男性とN妹が、館のすぐ脇の路地でヒソヒソ話をしている姿をチラ見した。たぶんあれは、渡米を目前にした2人の別れ話を目撃したのだろう。気まずい。
ウィッチンケア第10号〈昭和の板橋の「シェアハウス」では〉(P176〜P183)より引用
木村重樹さん小誌バックナンバー掲載作品
〈私が通り過ぎていった〝お店〟たち〉(第2号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈更新期の〝オルタナ〟〉(第3号)/〈マジカル・プリンテッド・マター 、あるいは、70年代から覗く 「未来のミュージアム」〉(第4号)/〈ピーター・ガブリエルの「雑誌みたいなアルバム」4枚:雑感〉(第5号)/〈40年後の〝家出娘たち〟〉(第6号)/〈映画の中の〝ここではないどこか〟[悪場所篇]〉(第7号)/〈瀕死のサブカルチャー、あるいは「モテとおじさんとサブカル」〉(第8号)/〈古本と文庫本と、そして「精神世界の本」をめぐるノスタルジー〉(第9号)
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Vol.14 Coming! 20240401
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