2019/05/10

vol.10寄稿者&作品紹介10 柳瀬博一さん

新潮社のWEB文芸誌『yom yom』で「日本を創った道、国道16号線」を連載中の柳瀬博一さん。おそらくいまも、お忙しいなか次回の原稿を執筆中のはず...思い返せば、小誌第5号にご寄稿いただいた〈16号線は日本人である。序論〉は、まさにサンプルというかショーケースというか、柳瀬さんが長く温めていた「16号線論」の試作でした。『yom yom』で進行中の連載では素敵な写真、地図も使われていて、1回あたり2万字近い力作(ちなみに現時点で最新の第3回は「音楽篇」で、永ちゃん、ユーミンのレコードジャケットや書影も豪華絢爛に掲載されています)。この連載が遠くない未来に完結し、その後、書籍化されること、ほんとうに楽しみ!

小誌今号への寄稿作〈海の見える岬に、深山のクワガタがいるわけ〉は、「日本を創った道〜」の第2回でも少し触れられていたミヤマクワガタについての話を、きっちりと「16号論」のスピンオフとして論じた作品です。ご存知のかたも多いでしょうが、柳瀬さんのツイッターのアイコンも綺麗な色の甲虫(てんとう虫の一種、と推察)。SNSにも小網代等で撮った虫の写真をたくさんアップしていまして、とても詳しいのです。作品内には虫好きにしか書けないような表現がたくさんあって、たとえばノコギリクワガタについては“「ヤンキー気質」で、手をかざすと「おら! やるのか、おら!」と大顎を広げ、前足を突っ張って威嚇する。威嚇しすぎてそのまま後ろにひっくり返っちゃう奴もいる”...いやぁ、まさにそんなヤツでしたよ。派手な風体だから、(こどものころに)採れるとめちゃくちゃ嬉しい。でも、決して珍しくはないヤツ。あっ、そういえばノコギリクワガタにはツノ(大顎)がまっすぐで小ぶりな(小歯型の)オスもいて、迫力はないけどそのシャープな姿はかっこよかったな。たしか、(親の転勤で住んでいたことがある)福岡市でも、16号線に連なる町田市でも「できそこない」と俗称で呼んでいた記憶があるけれど、いま考えると、ひどいネーミングだ。

もちろん柳瀬さんの語るクワガタ論が、たんなる「虫好きの話」で終わるわけはありません。“チンピラくさいノコギリクワガタ(ま、そこがいいのだが)と比べると、どこぞの名のある武将のような風情がある”ミヤマクワガタ、こどもにとって垂涎の的であったミヤマクワガタ──私はけっきょく1回も見つけたことがない(哀)──が、なぜ丹沢や箱根にある温泉宿の明かりに飛んできたりするのかを、関東の地形の歴史から掘り起こしています。みなさま、ぜひ小誌に掲載された柳瀬さんの一篇を、『yom yom』の連載と併せてご一読ください!



 三浦半島からほど近い湘南の海岸沿いの山にミヤマクワガタはいない。東京近郊でいうと、三浦半島よりはるかに山がちな町田市あたりの雑木林なども、ノコギリクワガタやコクワガタは多産するが、ミヤマクワガタはいない。高尾山周辺の奥多摩地方でようやく見ることができる。丹沢から箱根の標高500メートルから1000メートルのエリアになると、ミヤマクワガタは俄然個体数を増す。一方で、三浦半島から緑に覆われた丘陵地が繋がっている鎌倉から横浜の低山地には、細々とであるがミヤマクワガタが暮らしている。
 興味深いことだが、房総半島でも、ミヤマクワガタは、特徴的な分布を見せている。房総半島北部ではほぼ見つかっていないのに対し、館山から南の先端部では、海沿いでも捕まえることができるのだ。

ウィッチンケア第10号〈海の見える岬に、深山のクワガタがいるわけ〉(P058〜P063)より引用

柳瀬博一さん小誌バックナンバー掲載作品
16号線は日本人である。序論 (第5号)/ぼくの「がっこう」小網代の谷(第6号)/国道16号線は漫画である。『SEX』と『ヨコハマ買い出し紀行』と米軍と縄文と(第7号)/国道16号線をつくったのは、太田道灌である。(第8号)/南伸坊さんと、竹村健一さんと、マクルーハンと。〉(第9号)

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Vol.14 Coming! 20240401

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