東間嶺さんの小誌今号への寄稿作は、どこか軽やかで風通しがいい...そんな好印象を私は一読目から持っています。いや、べつに心温まる人情秘話とかでは全然ないので、そうだなぁ、そういう感動を期待されると東間さんも当惑してしまいそうですが、しかしこの一篇の主人公・カナは、作者のなにがしかの肯定的な動機に基づいて創作され、世の中に解き放たれたような感じが伝わってくるのです(物語上のカナは酒飲んで、クソみたいな世の中にイミフな持論を撒き散らしてるだけなんだけれども)。たとえば東間さんの前号寄稿作〈セイギのセイギのセイギのあなたは。〉全体に漂っていた鬱々とした空気感や、あの作品に登場した、それこそ『TOKYO COMPRESSION』の被写体のような書き割り的なキャラの重たさは、今作でも描かれてはいるんだけれども、「それが問題」というふうではなく、むしろ「それはたいした問題ではない」というものになっている!? でっ、あの作品で唯一書き割り的ではない、人肌感のある存在だったサイトウマナミ...あの人が転生/アップデートしたのが今作のカナかな、なんてヒグラシの羽音みたいなこと書いたりして(駄洒落が通じなかったら、まさにイミフ...)。
東間さんは5月10日、ご自身が主宰する“言論と、様々なオピニオンのためのウェブ・スペース”【エン-ソフ】に、今作〈パーフェクト・パーフェクト・パーフェクト・エブリデイ〉についての自己解説、併せて小誌バックナンバーへの寄稿作についてもまとめていらっしゃいます。私は小誌第9号で東間さんを紹介したさいに「いつもリアルタイムな現実に沿った小説作品を寄稿」する人、みたいなことを書きましたが、エン-ソフのエントリーを読んで、あらためて「ホントにそういう人だなぁ」と思いました。初寄稿のエッセイ以外は、昔話なし。少年時代の懐かしい思い出を情感たっぷりに記す、みたいなことを、小説という表現には全然求めていないんだ、と(いや、いつかそれをやるかもしれないが)。最近なにか書くとほとんどが「昔はよかった」的なボヤキになりがちな私としては、東間さんのストイックな姿勢を見習いたいと思います。あっ、それから上記エントリーには「※ 『パーフェクト~』は対として構想されていて、〈乗客〉の側から画面のむこうの〈乞食〉に投げかけられる視線を扱った『ビューティフル・ビューティフル・ビューティフル・マンデイ』を近々書く予定です。」との記述がありまして、これ、とても楽しみ!
カナのような糊口の凌ぎかたを「乞食」と言うこと、今作を読むまで知りませんでした。この言葉は、いまは既存のマスメディアでは不穏当、とされていそうですが、でも作品に倣えば、カナの「乞食」っぷりは、なかなか刺激的。「コアラやパンダは、努力をしない、息をして、食っちゃ寝しているだけで、億円単位の価値を生む。わたしも、同じなのだ」って、啖呵の切れ味鋭いぞ! 人類は資本主義社会以降いちおう経済という「しばり」をルールにしてやってきたけれどもうそろそろそれでは立ち行かなくなって...みたいな、柄でもないでかい世界観にも、思いを馳せられたりして。みなさま、ぜひ小誌を手にとって、この生意気で刹那な主人公の魅力に触れてください。
会社をばっくれたとき、わたしは、わたしの「かわいさ」を「使って」生きていこうと決めていた。仕事で色々な『乞食』たちと接していて、こんなやつらより、わたしの方を観たがる人は、もっと、ずっと多いだろうと、確信していた。
結果として、それは正しかった。はじめてから半月も経たないうちに、わたしは生計というレベルを遥かにしのぐ金額を『支援』されるようになった。
わたしは、そうした評価や立場を得るための努力を、特になにもしていない。わたしは、他の『乞食』たちが、動画の再生回数や支援を増やすために必死でしているさまざまな奇行や反社会的ふるまい、あるいは露骨な十八禁行為(脱ぎとか、パンツ見せとか、そういうアダルト枠のやつ)をしていない。毎日毎日、部屋で酒を飲みながら独り言をつぶやいたり、朝昼晩の食事をとるありさまや、ベッドで眠りこけているわたしを、延々とさらけ出しているだけだ。
ウィッチンケア第10号〈パーフェクト・パーフェクト・パーフェクト・エブリデイ〉(P162〜P166)より引用
東間嶺さん小誌バックナンバー掲載作品
〈《辺境》の記憶〉(第5号)/〈ウィー・アー・ピーピング〉(第6号)/〈死んでいないわたしは(が)今日も他人〉(第7号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈生きてるだけのあなたは無理〉(第8号)/〈セイギのセイギのセイギのあなたは。〉(第9号)
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Vol.14 Coming! 20240401
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