2019/05/20

vol.10寄稿者&作品紹介19 宮崎智之さん

前号には、本の巻頭を飾る〈極私的「35歳問題」〉というエッセイをご寄稿くださった宮崎智之さん。今年は2月に「吉田健一ふたたび」(川本直 、樫原辰郎等との共著)を出したり、イベントやラジオ出演者としてお名前を見かけることが多かったり...あっ、AbemaPrimeでご自身の禁酒体験を語っていたのは、あれはもう昨年末でしたか。宮崎さんの書くものや語りって、いつも自身の体験や感情に根ざしていて、いわゆる「頭でっかち」の人が語り過ぎて策士策に溺れる、みたいなことにはならないのが、素晴らしいバランス感覚だなぁと思います。近年はもはやレギュラー・コメンテーターのような「文化系トークラジオLife」でも、ややこしい議論と現実の事象との関係性をうまくつないでいくキーマンだし。

そんな宮崎さんが小誌今号には(おおやけにするのは)初となる創作作品を寄稿してくださいました。これが、とっても西東京っぽいというか武蔵野っぽいというか、な一篇。まず、語り手の作中での「新宿と渋谷より東側に住むイメージがわかなかった」という感覚...これは町田在住の私にも伝わってきました(町田は武蔵野っていうより相模じゃねぇの、ということはとりあえず置いておいてw)。とにかく、作品の構図が、東京の西のほうデフォルトなのです。語り部が好きでよく通っているセレクトショップは代々木上原にありますが、そうだなぁ、西東京人感覚でいうと、千代田線に乗って赤坂を過ぎると、もうそこは東京というより江戸、その先に進んで新御茶ノ水を過ぎたら「お江戸」、北千住を過ぎたら(←めったにいかないし)、そこはもう埼玉なのか千葉なのかもわからない、みたいな。語り部の勤める会社は葛西、という設定ですが、そこに通うことが「生活圏外に出入りしている」みたいな描きかたなのもおもしろいです。

穏やかな日常生活、そして移りゆく日々がさらりとした筆致で語られています。しかしたとえば登場人物が全員実名も性別も不明だったり(「語り部」と書いているのは、主人公が「僕」とも「私」とも言わないので)、セレクトショップの「クローゼット」という店名も、じつは語り部が勝手にそう呼んでいるだけのものだったりと(ほんとうは“英語で「戻らない時間」という意味のショップ名”とのこと)、この「さらり感」は、かなり作者が綿密に設定したことで、人工的に醸し出されているように思えます。そんななかに「繰り広げられる不条理と茶番、嚙み合わないそれぞれの物語たち。ユウキさんの作る服みたいに、世の中はしっかりと縫製されていない」といった一文が放り込まれていたりして。宮崎さんとのやりとりでは、(作品タイトルも含めて)この作品は「すべて」ではなく「一部」、みたいな構想も伺いました。みなさま、ぜひ小誌を手にとって〈CONTINUE〉を読み、今後の展開に期待してください!




 職場は葛西にある。本当はもう少し近くに住みたかったんだけど、キュウリを飼うことができるペット可の物件じゃなければいけないし、できるだけ貯金はしたいし、最低でも2K以上の広さはほしいしとあれこれ探した結果、東小金井まで下ることになってしまった。といっても、西多摩の青梅出身者としては、もともと新宿と渋谷より東側に住むイメージがわかなかった、ということも大きな理由の一つ。大学までは青梅の実家に住んでいたし、新卒で入った職場は新宿で、その時は南阿佐ヶ谷に住んでいた。離婚が決まった1か月前に転職も決まるという、人生で一番バタバタしていた時期にもかかわらず、我ながらいい物件に巡り合ったと満足している。駅から徒歩8分の2Kで6万9千円。管理費の2千円は不動産屋さんに頼んでまけてもらった。

ウィッチンケア第10号〈CONTINUE〉(P120〜P125)より引用

宮崎智之さん小誌バックナンバー掲載作品
極私的「35歳問題」〉(第9号)


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Vol.14 Coming! 20240401

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