小誌創刊号からの寄稿者・我妻俊樹さん。1〜10号まで、すべてに書いているのは、我妻さんと私だけでして、いやあ2009年の年末に町田市の喫茶店「ロッセ」で打ち合わせしたことが懐かしい。たしか、第39回新潮新人賞候補作品〈雨傘は雨の生徒〉のお原稿は、CD-ROMに焼いたので受け取ったはず。それで、この10年のあいだに我妻さんは単著だけでも10冊以上の小説を上梓。今月も「忌印恐怖譚 みみざんげ (仮)」の発行が間近、という健筆振りでして...しかしですよ(力説したい!)、小誌で掲載されてきた“他の媒体で発表する作品とは毛色の違う”作品群は、いまだ単行本化されておりません(なんともったいないことか!)。私は我妻さんの小誌掲載作に通底する実験性──いや、そんな簡単に言葉を与えられる作品群じゃないんだが──とにかく、わりと長尺であることを意識して展開する“独自のワールド”は、作家としての核のひとつではないかと感じています。我妻さんの創作への姿勢を窺い知るためのエッセンスが、グツグツと煮え立つように詰まっているというか。あっ、いま我妻さんに興味を持ったが、とりあえず小誌が手元にない、というかた、まずは無料体験できる〈note版ウィッチンケア文庫〉に掲載中の〈腐葉土の底〉を、ぜひご一読ください!
それで、小誌としてもひとつの区切りとなる第10号に我妻さんが寄稿してくださった作品...ちょっと、正直すごいです。これまでの、ある意味での到達点というか、極みというか(もちろん我妻さんは今後も「先に進んでいく」はずですが)。じつは、小誌が刊行されるまえに制作関係者のひとり(仮にAさんとします)がテキストへの率直な感想を私に伝えてくれまして、それは「自分が馬鹿だからかもしれませんが、この作品の意味がわかりませんでした」、というもの。いやいや、Aさん。「意味がわかる」というのをどう解釈するかにもよりますが、この〈みんなの話に出てくる姉妹〉と題された一篇を、「みんなの話に出てくる姉妹ってどんな人で、どんなことをしたんだろう」みたいな心持ちで読み解こうとしたら、それは意味がわからんですよ。そういう意味で「ではおまえは意味がわかったのか?」と問われたら、私もお手上げ級にイミフです。だって、冒頭の一文からして、作品のほうがそのような読みを躱しにかかってるし...「東京の話をもう一度聞いたら帰るよ、ときみが春に云った。春は何も答えなかった。春の耳は冬のうちに枯れて土にかえってしまって、二度ともどらないものと自分で決めたからだ。」!? おいおい、「きみ」は「春(という季節)」に「東京の話をもう一度聞いたら帰るよ」と云ったんじゃなくて、「春」に対して云ったんかい!? しかもその「春」...「耳」があったり「二度ともどらないもの」と決める意志があるんかい!? いやいや、「もどらないもの」の「もの」だって、「もどらない」なにかではなく、「もどる気はないんだもん」という意味での「もの」かもしれないし。
本作は冒頭から最後まで一貫して、このような感じです。私は文芸評論的な方面にはまったく疎いので、「この作品は○○である」的なコメントはできませんが、しかし編集者として我妻さんと短くもなく接してきて、今回このお原稿を私に託してくれたこと、とても嬉しく思いました。よくぞここまで、と小躍りしたくなった。でっ、ネットを拝見していると、我妻さんの作品に強く惹かれているかた、我妻さんの作品を文学的に評価しているかたの声も。ぜひぜひ、よろしければ〈みんなの話に出てくる姉妹〉の感想や評論を、アップしてみてください〜。
最大の新宿は鏡からはみ出して、電線にも映ってる。菊の花束が腕章とセットで配られるバイトを、アルタ前の広場で浮かびながら回転する林檎の芯、二つに割れたりくっついたりする豆腐と同時募集して、ラッキーカラーを決めた瞬間の蛇、腋の下から筆を取り出すアイドルが画面を奇妙に分け合っていた。いい男になったね、と顔が猿になっている仏像に寄り添う。わたしはここがイミテーションの陸橋だと知ってるけれど、冷汗がインフルエンザで止まらなくて、もし結婚が屋上の小屋をずらしながら月光に負けるなら、相手になるよ、手と手の関節に埋め込み合う鈴を持たされて出てきた横穴は、同じ苗字の森に惚れてる、そういうあらすじで花火になってる。だから時間が建物に負けたというのも神経の中では最初の出来事で、準急の通過した町が繋がってしまうのもわかるけど、掃除が大変だって、喜んでる母の上にオナガドリが浮かんでて、あれは口の中の傷を覆うラブホテル、指先から抜けない神社、昼下がりだったし。
ウィッチンケア第10号〈みんなの話に出てくる姉妹〉(P044〜P050)より引用
我妻俊樹さん小誌バックナンバー掲載作品
〈雨傘は雨の生徒〉(第1号)/〈腐葉土の底〉(第2号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈たたずんだり〉(第3号)/〈裸足の愛〉(第4号)/〈インテリ絶体絶命〉(第5号)/〈イルミネ〉(第6号)/〈宇宙人は存在する〉(第7号)/〈お尻の隠れる音楽〉(第8号)/〈光が歩くと思ったんだもの〉(第9号)
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Vol.14 Coming! 20240401
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