2019/05/21

vol.10寄稿者&作品紹介22 若杉実さん

来月には新刊「ダンスの時代」が発行予定の若杉実さん。私は2014年に出た若杉さんの「渋谷系」に衝撃を受け(だってほんとうに渦中にいた人にしか書けないようなことがたくさん!)、その後小誌第6号に〈マイ・ブラザー・アンド・シンガー〉(←この作品はいますぐ《note版ウィッチンケア文庫》でも読めますよ!)をご寄稿いただきいまに至るわけですが...いや、最初、私は“渋谷系”という本のタイトルに引っ張られて、若杉さんのルーツってネオアコ系の音楽、そこから派生してフリーソウルみたいなダンサブルなものも、みたいな先入観を抱いたまま打ち合わせなどしたのですが、いや、いや、むしろ若杉さんの根っこは広い意味でのダンス・ミュージックのほう(ご自身も踊るのが好き/そしてファッションにも詳しい!)。ですので、もうすぐ出る「ダンスの時代」、とっても楽しみです! あっ、それでファッションのことで言えば、〈マイ・ブラザー・アンド・シンガー〉って字面を見ると、ふつうR&Bとかを想像するかと思いますが、それは「×(ブブーッ)」。正解は...リンク先でぜひお確かめください!

〈マイ・ブラザー〜〉、そして前号への寄稿作〈机のうえのボタン〉でも、物語の主人公はシゲル(業界内では「渋谷系ならシゲ」で通ってる)でした。しかし今号への寄稿作〈想像したくもない絵〉の語り手...あの、少し斜に構えているけど好きなことには寝食を忘れるシゲルさん、なのかなぁ。音楽もファッションも世相も出てこない、父親と息子の話を若杉さんは届けてくださいました。かなり厳しい現実が描かれていますが、しかし、語り手の父親や家族に対する思いが、まっすぐに伝わってくる一篇です。

親元を離れて生活拠点を東京に移した人なら、いつかは体験する状況なのだろうな。今号では長田果純さんもご家族にまつわる寄稿作を届けてくださいましたが、そうだよなぁ...私はたまたま親と同居していますが、首都圏のベッドタウンだって、実家には年のいった親だけが住み、こどもは都心のマンション暮らし、なんて家族形態がふつうになっているのだから。たとえ今作の主人公がシゲルであったとしても、まったく不思議ではない物語。みなさまぜひ、小誌を手にとってご一読のほど、よろしくお願い申し上げます!





 つまらない買い物ぐせがあることは知っていた。ティッシュやトイレットペーパー、洗剤、シャンプー、歯磨き粉、歯ブラシ……外出するたびに生活用品をまとめ買いしてくる。頑迷なくせしてヘンなところに細かく、そういうところがおなじ男としてあまり好きになれなかった。
 しかし同情の余地がないわけではない。孤独なのだ。父がそうやって気を紛らわしているのはわかっている。仕事をしていたときからそうだが、まわりに仲間といえるような人間がいなかった。家には養子で入り、中学に上がると同時に望んでもいない職人の世界に入れられた。以来、朝から晩まで仕事づくし。深夜の機械作業はさすがに控えていたが、日付が変わっても仕事場の照明がついていることもあったため、若いときは近所から「いつ寝ているのか?」と嫌味をいわれていたらしい。

ウィッチンケア第10号〈想像したくもない絵〉(P136〜P139)より引用



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Vol.14 Coming! 20240401

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