昨年9月発売の初著書「渋谷系」が各方面で話題になった若杉実さん。タイトルから連想するのは音楽の世界で言われている〝いわゆる渋谷系〟...これもなんとも漫然とした括り...ですが、しかし若杉さんの本は〝いわゆる〜〟も含みつつ、もっと大きな視点〜1960年代から21世紀までの「音楽の街・渋谷」の変遷を当事者の一人として語った1冊だと思います。P6には「インタビューに答えていただいた方々」として20名の名前が五十音順に並んでいまして、それを見るだけでも、若杉さんが複合的な文化ムーブメントとして渋谷系を捉えようとしたのがわかる感じ。
私自身も1990年代前半は渋谷でレコードやCDを買うのが楽しくてしょうがなかったです。ONE-OH-NINEの地下のHMVとパルコクアトロのWAVEでどれだけ散財したか! 学生の頃から通っていたCISCOやディスクユニオン、タワーレコード等にこの2店舗が加わり、さらにノアビル界隈の小さなショップも体力のかぎり人力価格.comしていました。ただもう30代だったのと、もともとは西新宿系レコ猟人だったので〝いわゆる〜〟の音楽にどっぷりってことはなく、むしろ田中宗一郎氏が定義した(とwikiに記されている)「宇田川町の外資系CDショップを中心とした半径数百メートルで流通する音楽」というのにシンパシーも感じるのですが...しかしあの頃のそのエリアは音楽好きにとって天国(よく考えると地獄)のような場所でした。インターネットが普及していなかったこともあって、半径数百メートル内にわざわざ出向いて体力のかぎり人力グーグル...。
若杉さんの寄稿作「マイ・ブラザー・アンド・シンガー」...そのタイトルは、ぱっと見音楽がらみのようにも感じますが〜、じつは読めば最後になるほどと思えるもの。主人公のシゲルは<中坊から永ちゃん一筋>と語っていますが、作者の若杉さんと打ち合わせをしたさい「若い頃好きだった音楽」についてもたしか話した記憶があり、そのとき若杉さんの口からごくふつうに「風見しんご」という名前が出てびっくりしました。ヒップホップが好きで彼のダンスもマネしていた、みたいな。私はずっと風見さんをバラエティの人だと思っていたので、家に帰ってYou Tubeを見てなるほど、と。
作品には<業界内には「渋谷系ならシゲ」というのができあがっていて、それを堅持するため知りたくもない情報を日々かき集めていた>なんて記述もあり、若杉さんがこの小説にどのくらいご自身を投影させているのかは測りかねますが、ついつい「自伝的?」という思いが頭を過ぎりました。そしてそんなシゲルさんが最近はまっているものは...ぜひタイトルから推理して本編をお楽しみください!
たしかに90年代は猫も杓子も渋谷系だった。クライアントにも同業者にも「とりあえず渋谷系」というイージーな空気があった。中坊から永ちゃん一筋のオレが渋谷系だなんて笑わせてくれるじゃねえかとおもっていたが、背に腹はかえられない。業界内には「渋谷系ならシゲ」というのができあがっていて、それを堅持するため知りたくもない情報を日々かき集めていた。
事務所ももちろん渋谷にあった。ほんとは下北あたりでマイペースにやりたかったが、名刺に渋谷区と世田谷区とあるのとではちがいが大きすぎる。名刺を差し出し「やっぱり!」と会話に弾みがつき、首尾よく仕事が運んだことなんて一度や二度じゃきかない。なにかと都合がよかったのだ。セックス・アンド・ザ・シティのミランダのセリフにマンハッタンとブルックリンの関係を嘲笑するのがあったが、それくらいの差があってとうぜんだろう。
とにかく渋谷を拠点にしているだけで、いつでも攻勢をかけているような気分になれた。ほんとはそんなのどうでもいいことだが、この業界には〝見てくれ〟に命を燃やす手合いがうじゃうじゃいるんだからしょうがない。
ウィッチンケア第6号「マイ・ブラザー・アンド・シンガー」(P062〜P069)より引用
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Vol.14 Coming! 20240401
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