2026/04/27

vol.16寄稿者&作品紹介07 武田徹さん

 前号(ウィッチンケア第15号)には詩人・茨木のり子のあまり知られていない一面にスポットを当てた一篇をご寄稿くださった武田徹さん。今号への寄稿作は茨木よりもう少し前の世代の詩人・草野心平(1903〜1988年)についての論考です。草野といえばカエルをモチーフにした擬音語やユーモアあふれる詩が多く、一般的には戦後民主主義を体現した昭和の代表的な詩人、というイメージで語られてきた人物。武田さんは、そんな〝草野心平という詩人が気になっている〟と冒頭で書き、続いて、その理由を以下のように──〝それは草野が実は極めて熱心な戦争詩の書き手でもあったからだ〟と。


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作中に引用されている「大東亜戦争第二年の賦」という詩には、たとえば「われら微塵も平和を思ふな。戦ひはつづく。戦ひはつづけ。」といった、かなりきな臭い言葉が連なっています。武田さんは瀬尾育生の『戦争詩論1910–1945』、井筒俊彦の『神秘哲学』などを参照しつつ、「詩」という文芸ジャンルに特有な「言葉」の力について考察しています。たんに草野を糾弾、というよりも、創作者(=詩人)が無責任に陥るやもしれない「詩」の超越性/神秘性について...このあたりは、ぜひ小誌を手にしてご一読ください。
作品終盤では、現在のネット空間に飛び交う言葉の危うさについても言及されています。〝ワンフレーズの賛美と断罪、バズるスローガンなど、短い言葉が周囲の余白の中で飛び道具のように使われる〟という筆者の一節から私(←発行人)が思い浮かべたのは、"Make America Great Again"とかいう、赤い野球帽...Anybody home?。…これまでの武田さんの寄稿作の中でも、今作にはかなり厳しい批評性を感じました。昨今の時代の風向きを鑑みれば、今後、令和の(戦時下の)草野心平が現れて、無責任に詩の言葉を拡散するかもしれない──そんな危機感ゆえ、なのかな。〝戦争協力した文学者は草野以外にもたくさんいた。しかし戦時中の活動をなかったもののようにして戦後に平和を謳う白々しさにおいて草野に勝る詩人は見当たらないのではと思う〟...厳しいです。

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ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16) 発行日:2026年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税) 
ISBN:978-4-8-6538-180-1 C0095 ¥2000E



 しかし、そもそも詩はなぜ超越性を身に纏うことができたのか。たとえば井筒俊彦は『神秘哲学』で「言詮不及! それが神秘家の我々にたいする最後の言葉である」と書いている。言辞を弄して経典の類の言葉を解説する作業はむしろ真理から遠ざかる。言葉がそこにあること自体が神秘なのであり、ただそれに向き合い、受け入れるべきなのだ、と。こうした神秘に対するのと同じ姿勢をモダニズムの詩も求める。それは情緒や事実を叙する言葉ではない。その言葉がそこにあること自体が詩の奇跡なのだ。
 だが、そこには逆説があった。説明的言辞を伴わずに裸のまま示された詩の言葉は、前後の文脈によって縛られる散文の言葉以上に、多くの解釈を許す。散文でも前後の文脈に縛られた一連の言葉の連鎖からなる「行」と「行」の間に言語化しない思いが込められるが、詩文では行間だけでなく、語と語のつながりも自在であり、いたるところに解釈が入り込む余白が用意されている。
 特に草野は余白を積極利用した詩人だった。たとえば「冬眠」は●だけが印されたシュールな作品でもはや余白しかない。だからいかようにも解釈できる。
 もちろん、どの解釈も詩そのものからは遠ざかってゆくので、詩の超越性を真摯に極めようとする詩人であれば一切の解釈を拒み、徹底して孤高の存在であるべきだろう。しかし多くの解釈を誘う詩が多くの愛好者を得るのもまた現実であり、それに応えようとする詩人もいる。中には詩には多様な解釈がありえるので言葉の責任を取らされることはないはずだと甘えて、時代や政治が求める言い回しをだらしなく使う詩人もいよう。

~ウィッチンケア第16号掲載〈蛙たちの戦争 〜草野心平と詩的無責任をめぐって〜〉より引用~

武田徹さん小誌バックナンバー掲載作品:終わりから始まりまで。〉(第2号)/〈お茶ノ水と前衛〉(第3号)/〈木蓮の花〉(第4号)/〈カメラ人類の誕生〉(第5号)/〈『末期の眼』から生まれる言葉〉(第6号&《note版ウィッチンケア文庫》〉/〈「寄る辺なさ」の確認〉(第7号)/〈宇多田ヒカルと日本語リズム〉(第8号)/〈『共同幻想論』がdisったもの〉(第9号)〈詩の言葉──「在ること」〉(第10号)/〈日本語の曖昧さと「無私」の言葉〉(第11号)/〈レベッカに魅せられて〉(第12号)/〈鶴見俊輔の詩 ~リカルシトランスに抗うもの~〉(第13号)/〈立花隆の詩〉(第14号)〈いくじなしのむうちゃん!〉(第15号)

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Vol.16 Coming! 20260401

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