2026/04/26

vol.16寄稿者&作品紹介06 姫乃たまさん

 今年2月に「なぜかどこかに帰りたい」を上梓した姫乃たまさん。ウィッチンケアには掌編小説〈クランベリージュース〉を掲載した第12号以来の登場でして、おかえりなさい。じつは姫乃さん、小誌第6号と第7号にも小説をご寄稿くださっていまして(下記《姫乃たまさん小誌バックナンバー掲載作品》欄ご参照)、いまではめったに書店に出回らないその2冊、発行人直営のBASESTORESでなら残部少ですが入手可能。もちろん、某マーケットプレイスみたいなことはなく、定価/新品でございます。両作品とも時流に左右されない名作なので、ご存知なかった方はぜひぜひ!

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さて、姫乃さんのウィッチンケア第16号への寄稿作は〈負けないで 〜閉鎖病棟入院日記〜〉。あの、東京2020オリンピックが1年延期となった、コロナ禍の真っ只中の夏のできごとを、日記形式で綴った一篇です。冒頭に〝地下アイドル卒業後、双極性障害をこじらせていた私は度重なる自傷や救急搬送などを経て、2020年の夏を精神科病院の閉鎖病棟で過ごしました〟との説明があり...ええと、私はたしか、姫乃さんの活動10周年記念公演「パノラマ街道まっしぐら」(2019年4月30日)の少し前に、LOFT9 Shibuyaでのイベントでお目にかかって写真集「私小説」を買った記憶があるのだが...とにかく、記念公演が大盛況だったことはネットで知っていたものの、その後の経緯は、本作で初めて詳しく知りました。


それにしても、ご自身の尋常ではない体験、とくに7月30日と31日の「ご自身そのものが尋常ではない」状況を、ここまで冷静(冷徹!?)にテキスト化できてしまう、筆者の「表現者としての業」に感銘を覚えています。しかも、本作中の「私」はこんなにエキセントリックなのに、怖ろしい...もとい、素晴らしいことに、とってもチャーミングでポジティヴな生命力さえも感じさせるのですから。7月30日の日記にさり気なく挟み込まれた〝ギャグとホラーが紙一重であるように、シリアスな状況もまた笑いと紙一重だ〟という一文に、私(←発行人)は姫乃さんが無事帰還できた理由の一端を垣間見たような気がしています。
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ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16) 発行日:2026年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税) 
ISBN:978-4-8-6538-180-1 C0095 ¥2000E

 8月4日

 夜が怖い。厳密には消灯時間が怖い。
 デイルームのほうから患者さんたちの賑やかな声や、テレビの音が遠くに聞こえてくる時は、病室のベッドでうとうとしているのだけど、消灯時間が近づいて21時に廊下の電気が消え、22時にデイルームの電気が消え、さあ寝ましょう! となると緊張してしまって、同じベッドの上で完璧に目が覚めてしまう。
 病室には時間を知る道具が無いのでわからないけど、毎晩電車の音がしなくなった後まで、だいたい二時間くらいは猫のぬいぐるみを抱いて、暗闇で目を閉じたまま寝返りを打っている。時折泣いてしまう。
 こんな弱虫でよくいままで働いてこれたなと思う。同時に、こんなに弱虫だから働いてきたのだとも思う。
 子どもの頃、時折訪れる眠れない夜の恐怖は今でも鮮明に覚えている。
 いつもは起きている家族たちが眠っていて、窓明かりに照らされたシーツの影が皺だらけの老婆に見えて恐ろしかった。夜は私が眠らなければ、永遠に続くように感じられた。
 あの夜の恐怖を踏みつけるように、たくさんの夜を遊び、働いて、生きてきた。
 そしていま、またあの夜の中にいる。

~ウィッチンケア第16号掲載〈負けないで 〜閉鎖病棟入院日記〜〉より引用~

姫乃たまさん小誌バックナンバー掲載作:21才」(第6号)/「そば屋の平吉」(第7号)〈クランベリージュース〉(第12号)


 
※ウィッチンケア第16号は下記のリアル&ネット書店でお求めください!

【最新の媒体概要が下記で確認できます】https://yoichijerry.tumblr.com/post/810515107182460928/

Vol.16 Coming! 20260401

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