2019/05/27

vol.10寄稿者&作品紹介31 開沼博さん

小誌前号から、それまでの〈ゼロ年代に見てきた風景〉を若干リニューアル。ご自身と関わり深い「まち」の変貌を通して時代考察を続けている開沼博さん。開沼さんといえば、震災直後に注目された著書『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』の印象が強いかもしれませんが、しかし2013年にはダイヤモンド・オンラインでの連載「闇の中の社会学 『あってはならぬものが漂白される時代に』」を書籍化した『漂白される社会』(第12回新潮ドキュメント賞候補)を上梓。その後2017年には同書の続編ともいえる『社会が漂白され尽くす前に: 開沼博対談集』も出されていて、小誌への寄稿作は後者のフィールドから派生したもの...私は開沼さんがゼロ年代を通して見てきた“ちょっとヤバい”風景に、お原稿が届くたびにゾクゾクさせられてきています。顧みれば、タイトルが〈ゼロ年代に見てきた〜〉のころの開沼さんは、のちに社会問題化する事象の現場近辺に、けっこう立ち会っていた。その行動力にはずいぶん驚かされてきましたが、今作は新宿という「まち」での実体験にもとづいた一篇で、えっ、開沼さんって、20代をこんなふうに過ごしていたんですか! とさらに驚くことばかり。

寄稿作の冒頭には「2011年3月11日から数週の間、幾度か新宿・歌舞伎町を訪れた時に見た風景を忘れない」と記されています。歌舞伎町を訪れた理由は出版関係者との打ち合わせのためだったり...と、これは平常心で納得できたのですが、続けて“「家賃払えず家を失ったから一時的に頼む」と懇願され自宅に泊めてあげていた歌舞伎町で働く客引きのマナブさん(自分より10歳ぐらい年上で元々原宿の服屋の店員)とだったりした”となると、俄然、開沼さんとマナブさんなる人物との関係に興味が沸いてしまいました。その後、そもそも歌舞伎町には2003年ごろから、“誰でも1000円払えば10 分間殴らせてくれるという「殴られ屋」の本を読んで感動して”会いたくなっていった、と。このあたりの「好奇心旺盛な開沼さん」の様子は、ぜひ小誌を手にとってお楽しみください!

...もちろん、社会学者・開沼博氏の寄稿作は、「オレも若いころはけっこう無鉄砲だった」みたいな回顧譚だけでは終わりません。2011年3月10日(震災前日)が新宿コマ劇場・新宿東宝会館の解体工事の開始日だったことに、開沼さんはあらためて注目。当時の石原知事が進めた「歌舞伎町浄化作戦」「歌舞伎町ルネサンス」により、自分がゼロ年代に見ていた新宿の風景が、どのように変容したか。その変化は、たとえば同時期の六本木、渋谷、表参道の再開発と同種のものであったのかなどを、時代背景を踏まえて検証。作品の最後には、歌舞伎町のある意味での先端性(“それを先取りしていた”)を指摘する、独自の推論も示されています。



 先輩ライターや編集者とよく行ったのはそこから近い上海小吃(シャンハイシャオツー)だった。路地の奥、出版関係の愛用者も多い店だが、当時から歌舞伎町慣れしている人と、歌舞伎町っぽさを味わいたい人とで混み合っていた。1998年の映画「不夜城」の中でこの店の前の通りが撮影に使われたという話もまだそう古くは感じない時期だったように記憶している。この店だったり、歌舞伎町の他の店だったりでよく見た李小牧さんは2002年に出版した『歌舞伎町案内人』が話題になり継続的に続編を刊行している時期だった。李さんはラブホテルの清掃員、オカマパブのボーイ、お見合いパブのティッシュ配りなどを経て「歌舞伎町案内人」を名乗りだした。要は、歌舞伎町にやってきた外国人客相手の客引きだが、そもそもは中曽根内閣がはじめた「留学生10万人計画」のもとで、日本にファッションを学びにきた留学生の一人だった。この留学生10万人計画とは、他の先進国に遅れをとっている留学生の受け入れによる国際化を達成するために、2000年までに留学生を10万人受け入れることを目指してはじめられた「規制緩和」だった。留学生に限らず、外国人全体に対して固く閉ざされていた日本の規制が緩められる中で、90年代に入ると中国系マフィアが日本国内での犯罪に関わることが社会問題になったり、94年には風林会館近くの北京料理屋で「青龍刀事件」と呼ばれる死傷者がでる中国人内部の抗争が起こったりもしていた。ただ、清濁併せ呑む歌舞伎町の間口の広さは、李さんはじめ野心と開拓者精神にあふれる若者だった少なからぬ外国人にとっての日本でみる夢の受け皿となっていた。

ウィッチンケア第10号〈ゼロ年代からのまちの風景(パート2)〉(P188〜P192)より引用

開沼博さん小誌バックナンバー掲載作品
ゼロ年代に見てきた風景 パート1」(第5号&《ウィッチンケア文庫》)/「ゼロ年代に見てきた風景 パート2」(第6号)/「ゼロ年代に見てきた風景 パート3」(第7号)/「ゼロ年代に見てきた風景 パート4」(第8号)/〈ゼロ年代からのまちの風景(パート1)〉(第9号)


【最新の媒体概要が下記URLにて確認できます】
https://bit.ly/2GSiNtF
【BNも含めアマゾンにて発売中!】
http://amzn.to/1BeVT7Y

Vol.14 Coming! 20240401

自分の写真
yoichijerryは当ブログ主宰者(個人)がなにかおもしろそうなことをやってみるときの屋号みたいなものです。 http://www.facebook.com/Witchenkare