2022/04/26

VOL.12寄稿者&作品紹介02 矢野利裕さん

 今年2月に『今日よりもマシな明日 文学芸能論』(講談社刊)を上梓した矢野利裕さん。同書は町田康、いとうせいこう、西加奈子の作家論をメインに、補論として昨年の東京五輪にまつわる小山田圭吾の件についての考察も収めた文芸批評の本。表紙の挿画はイラストレーター・unpis(ウンピス)の作品で、これ、DJでもある矢野さんのイメージを膨らませてオリジナルで描いたんじゃないかなぁと私は感じました。unpisの絵って、一瞬「あれっ?」というヘンなところが魅力。矢野さんの本のタイトルも「文学芸能」という、読んでみないと意味が「あれっ?」な言葉を連結していて、呼応しているのか? でっ、表紙を捲るとまた表紙みたいな紙質でこの「赤いレコードを持った人」がアップになるんですけれども...個人的には文芸批評本というともっといかつい書物だという印象を持っていたので(内容も「○○は女というものが書けない作家なのであるのである」みたいな...)、この軽やかな装幀からして新鮮でした。あっ、Real Soundのサイトに《矢野利裕が語る、文学と芸能の非対称的な関係性 「この人なら許せる、耳を傾けるという関係を作ることがいちばん大事」》という円堂都司昭さんによる素晴らしいインタビューがあるので、ぜひご参照を!



矢野さんの今号への寄稿作は『今日よりも〜』のエピローグの、さらなるサブリーダー的な内容。教育者である矢野さんと生徒との交流をベースに、自意識についての考察が展開されています。前半では固有名詞にまつわる(というより「纏わり付く」かな)自意識について。中学生の矢野さんが「デ・ラ・ソウル」を好きなミュージシャンだと言ったアメリカ人英語教師に話しかけた逸話、いいな、羨ましいな、と思いました。そういう体験が、のちの矢野先生が生徒に接するさいのスタンスの礎なのか、と。中〜後半での重要な固有名詞は「エヴァンゲリオン」。とくに矢野さんと2003年生まれの高校3年生のある教え子(女性)との、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』観賞後の感想の違いが印象深かったです。...ちょっと恥ずかしいんですけれども、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』だけDVDで持ってる私は、矢野さんの作品評に深く納得しつつも、気分的には教え子さんの言い分に共感しちゃったりして。

矢野さんが終盤近くで「僕のなかからはどうしようもなく失われてしまったもの」と表現している...なんだろう、「感じ方」(←自意識の要因?)みたいなもの。じつは私は“それ”をいまだに隠し持ってるというか飼い慣らしてるというか、そんなふうにしてなんとか社会適応しているというか...ちょっと意味不明になってきましたので、みなさまにおかれましては、ぜひこの一篇を読んで、ご自身の“それ”と照らし合わせてみていただけると嬉しく存じます。




 リアルタイムで旧エヴァに接していた僕にとって、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はとても感銘を受ける作品だった。物語としてほとんど破綻していた(もっとも、その破綻こそに凄みが宿っていたのだが)作品をあらためて作り直し、堂々と完結させた庵野監督に敬意を抱かずにいられないし、その壮大な物語の着地も見事だと思った。
 まっとうに社会と向き合ってまっとうに大人になることを肯定するような、シンジをはじめとする作中人物たちのありかたにも、30代のいち男性として共感した。加えて言えば、そのように社会と向き合うことを肯定することが、1990年代とは異なる2020年代という時代にふさわしいとも思った。

〜ウィッチンケア第12号〈時代遅れの自意識〉(P010〜P015)より引用〜


矢野利裕さん小誌バックナンバー掲載作品:〈詩的教育論(いとうせいこうに対する疑念から)〉(第7号)/〈先生するからだ論〉(第8号)/〈学校ポップスの誕生──アンジェラ・アキ以後を生きるわたしたち〉(第9号)/〈本当に分からなかったです。──発達障害と国語教育をめぐって〉(第10号)/〈資本主義リアリズムとコロナ禍の教育〉(第11号)


【最新の媒体概要が下記で確認できます】

https://bit.ly/3vNgnVM


2022/04/25

VOL.12寄稿者&作品紹介01 トミヤマユキコさん

 私(←発行人)はいまだに紙の朝日新聞を定期購読していまして、さすがにここ数年は「デジタルでもいいかな」と思ってはいるんですが、それでも長年の習性で朝、ポストから新聞を出して拡げるわけでして、とくに土曜の朝は少し寝坊気味にパサパサと頁を繰って、書評欄で書評委員・トミヤマユキコさんの名前を見つけるのが楽しみです。トミヤマさん、毎回セレクトも小粋なんですが、とにかくオススメの一文が小気味よい。たとえば今月(2022年4月)は『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』と『わたしが先生の「ロリータ」だったころ』を紹介していますが、前者では“ドンキとレヴィ=ストロースって一体どんな組み合わせだよ、と思った人にこそ読んで欲しい。「言われてみれば確かに」となるから”、そして後者では“トラウマから逃げずに向き合った労作である。気合を入れて読んで欲しい。”と。限られた字数の紹介文なのに、こんなインフルエンシヴ(!?)なフレーズを投げられたら、「お、おう。読むか」となるよな〜。



そんなトミヤマさんの今号への寄稿作は「わたしはそろそろスピりたい」。スピってるというと、個人的にはなんとなく今号編集作業中にネットをざわつかせていた元テレビ局アナウンサーを思い浮かべてしまうんですが...それはともかく、オススメ上手なトミヤマさんのスピり方指南は示唆に富んでいます。令和になってからずっとダウナーなんですけど、みたいな、世の中と自身のメンタルの摺り合わせに手こずっている人に、ぜひ読んでいただきたい一篇。ある意味、達観した人生のアティチュードを示してくださっているようにも読めるんだけれども、でも細かく読んでみると「あれっ、この筆者って元来その方面に向かう資質があるのかも?」ってなお茶目な逸話も盛り込まれていて、いい感じです。


じつは小誌今号、新たな寄稿者も増えまして「はて、果たしてどんな1冊になるんだろうか」という“見えない”状況で編集作業をスタートさせました。しかし原稿〆切の比較的早い段階でトミヤマさん、そしてのちに紹介する小川たまかさんの作品が届き、「ああ、このお二人にトップとクローザーをお任せすると良い流れの本になるはず」と確信を持てたのでした。もちろんウィッチンケアは誰のどの寄稿作から読んでも全然OKにおもしろいんですが、もし書店で偶然見かけた、なんて方がいらっしゃいましたら、ぜひ本作からお目通しくださると嬉しく存じます!




特定の宗派とか教義を信じるような敬虔さは持ち合わせていないので、全体的に節操がありません。雑食性でいいじゃない。浅く広くスピっていこうや。そう思っています。たぶん、人間の人間による人間のための世界だけが全てだと思いたくないんでしょうね。複数の視点や価値観を持っていたいという感じでしょうか。コロナ禍でどこへも行けない日々が続きますが、ここに視覚では捉えられないもうひとつの世界があると考えたらどうでしょう。急に世界が2倍。たいへんおトクです。

〜ウィッチンケア第12号〈わたしはそろそろスピりたい〉(P06〜P008)より引用〜


トミヤマユキコさん小誌バックナンバー掲載作品:〈恋愛に興味がないかもしれない話〉(第10号)/〈俺がお前でお前が俺で──マンガ紹介業の野望〉(第11号)


【最新の媒体概要が下記で確認できます】



2022/04/18

正式発行から2週間ちょい経って(ウィッチンケア第12号)

 2~3月の引き籠もり編集作業から一転。桜が咲いてからの発行人は都内を中心に、書店さま巡礼の日々を送っています。帰宅すると、この10年で500回もつぶやいていなかったTwitterの個人アカウントで情報発信。とにかく、「今度のウィッチンケアはおもしろいですよ!」ということを、可能な限り多くの方に伝えたいと思っています(SNS各種でご協力いただいている皆様、大感謝!)。

発行人の肌感覚(?)では、これまでのどの号よりも重層的な展開だなという手応えです。ご理解を示してくださった書店が増えたこと。寄稿者がさらに多様になったことで、興味を持ってくれる層が広がったこと。そして、おそらく、それなりに動いている(売れている)ような気配が、書店員さまやSNS上の声から感じ取れている(取次会社からの追加注文も入りました)。



正式発行から2週間ちょい。月刊誌や季刊誌であれば「そろそろ次号は」の時期なのでしょうが、小誌は年1回発行。ここからが頑張りどころだと思っています。この先、発行人ができること。都内(それも私が東京の端っこ/町田市在住のためついつい西側方面)だけでなく、もっと広範囲の書店さまに小誌の存在を伝えること。そして、第12号に掲載された42名の書き下ろし寄稿作品について、その魅力を個別に紹介していくこと。

例年は5月1日から“ほぼ1日1作”のペースで《寄稿者&作品紹介》をおこなってきましたが、今号はそれだと梅雨入りしても続いていそうなので、今週中にスタート致します。これから1ヶ月余、各種SNSがさらに喧しくなりそうですが、ぜひお付き合いください。

そして、来月5月29日に開催される「第三十四回文学フリマ東京」には、3年ぶりに「ウィッチンケア書店」として出店します(仲俣暁生さん、木村重樹さんとの共同主宰)。この準備を恙なく進めるためにも、書店さま巡礼と《寄稿者&作品紹介》は、より俊敏に遂行せねばなりませぬ。

ここ数日の寒の戻りと雨に活性を挫かれていましたが、切り替えていきます。みなさま、2022年4月1日に正式発行となりました文芸創作誌「ウィッチンケア」第12号を、引き続きどうぞよろしくお願い致します!

★noteにまとめた《ウィッチンケアを手に取れる書店》一覧、こちらにも最新版を掲載します!

【北海道】


【秋田県】


【東京都】



2022/04/01

ウィッチンケア第12号、2022年4月1日正式発行!

東京の桜は満開。
ウィッチンケア第12号、本日(2022年4月1日)正式発行です!

みなさまどうぞよろしくお願い致します。



 ウィッチンケア第12号(Witchenkare VOL.12)


発行日:2022年4月1日
出版者(not社):yoichijerry(よいちじぇりー)
A5 判:252ページ/定価(本体1,500円+税)
ISBN::978-4-86538-128-3 C0095 ¥1500E




【寄稿者/掲載作品】~もくじより〜

006……トミヤマユキコ/わたしはそろそろスピりたい
010……矢野利裕/時代遅れの自意識
016……ふくだりょうこ/死なない選択をした僕
020……武田徹/レベッカに魅せられて
024……長井優希乃/牛の背を駆け渡る
030……カツセマサヒコ/復路、もしくは、ドライブ・ユア・カー
040……インベカヲリ★/希死念慮と健康生活
044……木村重樹/2021年「まぼろし博覧会」への旅──鵜野義嗣、青山正明、村崎百郎
050……姫乃たま/クランベリージュース
054……ジェレミー・ウールズィー/PMCの小史
058……すずめ園/人間生活準備中
062……武田砂鉄/クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー
068……青柳菜摘/ゴーストブックショップ
072……長谷川町蔵/Bon Voyage
080……スイスイ/わたしはその髪を褒めれない
086……仲俣暁生/青猫
092……蜂本みさ/イネ科の地上絵
098……柳瀬博一/2つの本屋さんがある2つの街の小さなお話
104……野村佑香/渦中のマザー
108……長谷川裕/ふれあいの街 しんまち
114……美馬亜貴子/きょうのおしごと
120……多田洋一/織田と源
132……はましゃか/穴喰い男
140……武藤充/日向武藤家の話
144……宇野津暢子/秋田さんのドタバタ選挙戦
148……柴那典/6G呪術飛蝗
154……山本莉会/ゴーバックアゲイン龍之介
160……宮崎智之/オーバー・ビューティフル
168……久山めぐみ/壁の傍
172……吉田亮人/撮ることも書くことも
176……藤森陽子/おはぎとあんことジェンダーフリー
180……中野純/完全に事切れる前にアリに群がられるのはイヤ
186……かとうちあき/鼻セレブ
192……荻原魚雷/将棋とわたし
196……東間嶺/「わたしのわたしのわたしの、あなた」
202……我妻俊樹/雲の動物園
208……久保憲司/マスク
216……ナカムラクニオ/妄想インタビュー 岡倉天心との対話──「茶の湯」という聖なる儀式について
220……清水伸宏/つながりの先には
228……朝井麻由美/ある春の日記
232……谷亜ヒロコ/テレビくんありがとうさようなら
236……小川たまか/女優じゃない人生を生きている
246……参加者のVOICE
251……バックナンバー紹介

編集/発行:多田洋一
写真:白山 静
Instagram:https://www.instagram.com/oriondayo_/
Art Direction & Design:太田明日香
取次:株式会社JRC(人文・社会科学書流通センター)
印刷/製本:株式会社シナノパブリッシングプレス

〈2010年4月創刊の文芸創作誌「Witchenkare(ウィッチンケア)」は今号で第12号となります。発行人・多田洋一が「ぜひこの人に!」と寄稿依頼した、42名の書き下ろし作品が掲載されています。書き手にとって、小誌はつねに新しい創作のきっかけとなる「試し」の場。多彩な分野で活躍する人の「いま書いてみたいこと」を1冊の本に纏めました!〉

【公式SNS】

Instagram

note

※いくさ(ノベライズ・ウィッチンケア第12号)
(下記URLを読むと第12号の全体がざっくり見渡せます)







Vol.16 Coming! 20260401

自分の写真
yoichijerryは当ブログ主宰者(個人)がなにかおもしろそうなことをやってみるときの屋号みたいなものです。 http://www.facebook.com/Witchenkare