2015/05/13

vol.6寄稿者&作品紹介15 西牟田靖さん

今年3月に発行された西牟田靖さんの「本で床は抜けるのか」はすでに四刷、そういえば昨日の朝日新聞のサンヤツにも同書の広告が掲載されていました(ちなみに本日は武田砂鉄さんの「紋切型社会〜」が)。私は神保町の三省堂書店で買いましたが、じわじわと書店で見かける機会が多くなっている感じで、ロングセラーおめでとうございます! もともとは仲俣暁生さんが編集人(今年4月からは発行人も)を務める「マガジン航」の人気連載企画。書籍化にあたり加筆修正が施され、紙の本(←底抜けの原因!)として登場。世の愛読家にとっては、まさに「他人事ではない」テーマですもの。同書には仲俣さんを始め中野純さん、武田徹さんなど、以前から小誌にご縁のあるかたも登場します。

私の居住空間でもかつては順調に本が増えておりました。ごく単純に、学生時代から愛読する雑誌のBNを並べているだけでも、どんどん危険な状態に(...「ミュージック・マガジン」本棚とか、泣笑!)。私は他に音源収集癖もありますのでこの2つを併行させると将来どうなるのかとあるとき真剣に考えまして、テキストに関わる仕事をしている身ながら音源を優先することに。...しかし人生の黄昏時に差し掛かって「音源は所有しなくてもOK」な時代が到来するとは! もーっ、先に言ってよ、みたいな気持ちでiTunesの音楽と関わる日々。音源(聞くもの)で起こった変化は本(読んだり見たりするもの)でも同じように起こるのか?

今号寄稿作『「報い」』は、西牟田さんが初めて手がけた小説です。小誌巻末の「参加者のプロフィール」欄では<類似する事件は存在するが、本作は完全なフィクショ>と説明されていますが、これまでに西牟田さんが発表したルポなどを丹念に読んできたかたなら、きっと思い当たるふしがある!? また、お原稿を受け取るまでの過程で、西牟田さんは「もっとずっと長いものを削りに削って今回発表するものにした」と仰っていました。フィジカルな本=誌面の都合で小誌では長尺ヴァージョンを掲載できなかったことが残念。ぜひ将来、できれば独立した1冊の本(←底抜けの原因!!)として、本作に再会できることを願います。

物語の主人公・冬岩五郎は、もの書きの使命感で篠塚則子失踪事件の真相を追います。冬岩に真相解明を託し協力する和歌山県警OB・黒木誠とのやりとりは、結末部分でも印象的。そして事件の本筋と同時進行する、この作品のサブストーリーでありながらメインテーマとも読める、冬岩と妻との関係性。タイトルが「報い」と括弧付きなのは、このあたりの複雑な心境を反映させてのものだと私は感じました。<自分が追いかけた事件のせいで妻が壊れたことは間違いなかった>という一節は、一読者としてホントに切なくなっちゃいました...。


 ガラス破損の件には略式起訴で30万円支払い命令が下った。それを機に、冬岩の妻は妄想にとらわれるようになった。
「あの男が家に来るわ。私たちを殺しに。早く逃げなきゃ」
 妄想は次第に冬岩への恨みへと転化していった。
「私はもともと結婚したときから不公平を感じてたのよ。あなた、次こそは売れるっていって頑張るのはいいけど、単にわがまま放題してただけでしょ。私を犠牲にして。あなたのせいでめちゃくちゃになったわ。どうしてくれるの。あなたがお金にもならない事件を追いかけたせいよ。私は娘と一緒に実家に帰ります。じゃあ」
 下村がわざわざ東京までやってくるとは思えなかった。しかし、自分が追いかけた事件のせいで妻が壊れたことは間違いなかった。人がやらないぐらいにテーマを深追いすることで、何か必ず成果を得られるし、報われるのだと冬岩は思っていたが、そんなことは幻想だし、甘えなのだということを、彼は家族の絆が壊れることで思い知った。


ウィッチンケア第6号『「報い」』(P092〜P097)より引用

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Vol.14 Coming! 20240401

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