2015/05/06

vol.6寄稿者&作品紹介07 吉田亮人さん

<僕は今、「働くとはなにか」を一つのテーマとして写真を撮っています>。これは「2014年度コニカミノルタ・フォトプレミオ年度大賞」を受賞した吉田亮人さんの【作者コメント】の冒頭にある言葉。受賞作「Brick Yard」はバングラデシュのレンガ工場労働者に焦点をあて、同テーマに挑んだ作品です。前号掲載作「始まりの旅」では小学校教員だった吉田さんが写真家になった経緯が描かれていましたが、今号への寄稿作「写真で食っていくということ」では、自身の「働くとはなにか」のきっかけについて、カメラではなくテキストで述懐しています。

作品内での出版社への売り込み(雑誌社への「営業電話」)シーンは、先方との会話だけでも粘っている感じが伝わってきますが、実際は阿吽のやりとりや沈黙含めて、もっと迫力があったんだろうな、と。じつは小誌も「まず本をつくりたくて、できあがっちゃったからなんとか取り扱ってくれる場所を探さなくっちゃ」で始まった媒体なので、吉田さんの気持ちはわかるな、と。ただ小誌は私の不徳の致すところで、吉田さんのように<僕は作品をさまざまな雑誌社や出版社へ売り込みに行った。幸いにも制作した全ての作品が掲載され、それはお金へと変わり、次の作品のための資金となった>というような報告ができぬままいまに至るわけですが...いいんです、人は自分の環境で精一杯やるしかないんだし(泣笑)。

<みんなのミシマガジン>の「石井ゆかりの闇鍋インタビュー」にも吉田さんは登場していて、そこでは石井さんに「吉田さんの奥さんは、神ですか」と尋ねられているくだりがあります。今号掲載作内にも奥さんの神的発言がありまして、それは「一回どっかで今まで築いたモン、全部失ったらええねん」...私はここを読んで「働くとはなにか」とともに「結婚とはなにか」についても、あらためて考えてしまいました。

そしてもうひとつお知らせ。吉田亮人写真展「Brick Yard」は、2015年5月12日(火)〜5月18日(月)の期間、恵文社一乗寺店ギャラリーアンフェールでも開催されます(同店は小誌を創刊号からお取り扱いくださっています)。オリジナル写真プリントや限定200部の写真集の販売されるとのことですので、みなさまぜひぜひ!


 しばらくお待ちください、という受付の女性の機械的な声。次に調子外れの「白鳥の湖」が流れ出し、僕はしばし異世界へと旅立つ。白鳥の湖が2周くらいして、ようやく担当の人が電話に出た。「はい、お待たせしました」 声からすると、初老らしき男性。電話の向こうではいろんな人の声やベルの音がして、忙しそうな様子が伝わってくる。「編集部」という未知の現場を受話器ごしに感じながら、あ、こんにちは。初めまして、カメラマンの吉田です。ともう一度、さっきやった自己紹介を繰り返す。
「えー、ヨシダさん? チベットの『鳥葬』の写真ですか。それ見たいですね。ただね、あいにく私が夏休み入るんで、お会いすることができないんですよ。え? 京都住んでるの、あなた。京都からわざわざ来るの? もう上京の日程も決まってるって!? そうなの……えー、しょうがないなあ。どうしようかな。じゃあさ、会社来るからさ。うーんとこの日はどう? 一度見るからさ。はい、わたし◯◯という者ですから」

 食い下がったおかげで、なんとか会ってくれることになった。初老はものすごい早口でまくしたて、日程と時間を指定すると慌ただしく電話を切った。これが僕の初めての雑誌社への「営業電話」だった。写真を始めて1年半が経っていた。僕はアポイントが取れた喜びを噛み締めていた。頭の中では白鳥の湖がグルグルとリフレインしていた。

ウィッチンケア第6号「写真で食っていくということ」(P040〜P045)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/115274087373/6-2015-4-1

cf.
始まりの旅

Vol.14 Coming! 20240401

自分の写真
yoichijerryは当ブログ主宰者(個人)がなにかおもしろそうなことをやってみるときの屋号みたいなものです。 http://www.facebook.com/Witchenkare