2021/05/23

volume 11寄稿者&作品紹介26宮崎智之さん

 宮崎智之さんが昨年末に上梓した『平熱のまま、この世界に熱狂したい 「弱さ」を受け入れる日常革命』の2章には、小誌第9号が初出となる「35歳問題」(小誌掲載時タイトルは〈極私的「35歳問題」〉)が収録されています。ホント、小誌での〝試し書き〟がきっかけとなってのちに書籍にまとまること、1人出版者(not社)として嬉しい限り。宮崎さんは同書刊行後の昨年12月22日から晶文社のWebにて「モヤモヤの日々」と題した連載もスタートさせていまして、こちらは平日毎日更新というハイペース。明日(5/14)には連載100回記念のオンライントークが予定されています。そんな宮崎さんは小誌前号では〈CONTINUE〉という小説を(同作品についての逸話が「モヤモヤの日々」の第18回で語られています)、そして今号にも〈五月の二週目の日曜日の午後〉と題した書き下ろし小説をご寄稿くださいました。これらの作品もいずれ1冊にまとまること、願ってやまないです。

今号への寄稿作はキヨシ(41歳)とアカネ(39歳)という、同棲して8年が過ぎたカップルの物語。三人称の作品ですが、語り手はほぼキヨシ...なので、アカネの人となりはほぼ、キヨシを介して読者に伝わります。生活は平穏で、価値観なども共通しているように語られている。テレビにお笑い芸人が映ると同じように笑っている。ある日、そんな2人の「この先」について、キヨシの大学時代からの友人・ミノルはストレートな問いを投げかけます。「ところで、アカネちゃんとはどうなんだよ?」「結婚だよ。もう八年間も同棲してるんだろ」「アカネちゃんは、なんて言ってる?」と。いまの時代、そんなことにツッコむのは昭和のオジサンっぽくも感じますが、しかしつい最近「逃げ恥」の2人もリアルで結婚したりしてびっくりだったし、とにかくミノルの物語上の役割は、この一篇ではとても重要なのであります。

終盤、アカネがキヨシを自分の育った街に連れていくシーンが印象的です。ここでも、作者によるアカネの心理描写はなし。キヨシの目に映ったアカネの後ろ姿は描写されていたりするんですけれどもね。...そして2人はどんな「この先」を迎えるのか? ぜひ小誌を手にとってお確かめください。



「すぐそこだから」と言ってアカネは歩き出した。キヨシは、アカネの考えていることをはかりかねていた。なぜ急にこの街に来る気になったのか。なぜキヨシを誘って来ることにしたのだろうか。
 昨日よりも風のある涼しい日だった。住宅と住宅の間から吹く風が首筋にあたるのがキヨシには気持ちよかった。昨日と同様に晴れ渡った空には淡い雲が浮かんでいた。二車線の道路に出た。車通りはそれなりにあり、右手の直線の彼方に緑色の看板のコンビニエンスストアが見えた。信号が青になり横断歩道を渡って直進すると、また同じ住宅街が続いていた。

〜ウィッチンケア第11号〈五月の二週目の日曜日の午後〉(P162〜P168)より引用〜

宮崎智之さん小誌バックナンバー掲載作品:〈極私的「35歳問題」〉(第9号)/〈CONTINUE〉(第10号)

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Vol.14 Coming! 20240401

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