2010/04/02

寄稿者紹介2(我妻俊樹さん)


数年前、数人での酒宴の際に我妻俊樹さんの対面にいて、不思議な体験をしたことがあります。私は店内の壁にある時計がよく見える席で、その時計は当然動いているものと思って会話を続けていました。

じつは飲んだ店は私の家のすぐ近くなので、帰ろうと思えばいつでも帰れたのですが、でも始発を待っている人も含まれていたので、それまでは一緒にいようと思っていました。そのうち、滅多にないくらい酔いが回り、なぜか私は異常なテンションで我妻さんをいじり続けて暴言放言の嵐。

窓の外がすっかり明るくなり、私は時計が止まっていたことに気づきました。他の人はみんな「今日は多田の独演会で朝帰りか」と、つきあってくれていたのです。私が始発待ちの人につきあっていたのではなくて...。なんだったんだ、あの日は? あとで我妻さんが「でも楽しかったですよ」と言ってくれたので、ほっとしたことを覚えています。

私はいまでも密かに、あの時計はじつは我妻さんが夜の途中のどこかで止めたのではないか、と思っています。マジックかなんか、使って。そんな術が使えそうな気配がある人なのです。私と我妻さんは十数年来の知り合い。その間、十数回くらいは会ったかな? テキストを介しての“会話”は、わりと濃密だった時期があったような。

Witchenkareをつくることになって、ひさびさに「リアル我妻さん」と喫茶店で会いました。あいかわらず端整な顔立ちで、瞳がキラキラしていて、けっして多弁ではないが、好人物な印象。そんな我妻さんの書く文章は、でもやっぱり時計くらいなら簡単に止めてしまいそうな、妖しいマジックを秘めています。

今回我妻俊樹さんが寄稿してくれた「雨傘は雨の生徒」は第39回新潮新人賞(2007年)の【小説部門】で最終候補作となった作品です。5人の選考委員のうちの町田康氏と福田和也氏の選評は、「私がこれからも書き続けることを強く肯定してくれるものだった」と、我妻さんはかつて自身のブログに記しています。そんな我妻さんの他の作品は、ネットや書籍でも読むことができます。
ビーケーワン怪談大賞
てのひら怪談—ビーケーワン怪談大賞傑作選

今日の砂漠」(我妻俊樹さんのブログ)

Vol.14 Coming! 20240401

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