2012/05/20

vol.3寄稿者紹介12(吉永嘉明さん)

The バブル。私は20代後半に体験しました。ワンレンボディコンもたくさん見かけましたよ。夜の中央区港区あたりにうようよいた...扇子なんか持ってなかったし、じゅりあなと〜きょ〜もまだなかったんじゃないかな。「トゥーリア」「ゴールド」なんて名前は聞きましたけれども(どちらもいったことない)。そのころの私はわけあって親から多額の借金をしていましたので、ただただ馬車馬のように働いていました。

バブル崩壊後の風景でいまだに印象に残っているのは、みんなが日本の将来について激論していた渋谷のカフェバー(午前0時過ぎ)。湾岸戦争が始まって、おしゃれなお店の客席がどこも「朝まで生テレビ」みたいで。

吉永嘉明さんの寄稿作品は、そんなバブルの末期が舞台。この物語の登場人物たちってたぶん私と同年代なんだけれども、ずいぶん違う生活を送っていたんだな〜、と。なんて言えばいいんだろう...トンガッてた人々!? あっ、でもレコ屋めぐりのエピソードはとってもよくわかって、なんであのころは音楽にあれほどカネつぎ込んでいたのだろう、と。当時、私の仕事のストレス解消法はCDのどか買いと深夜のどか食いでして、六本木のWAVEで4000円くらいする見知らぬCDを買い漁ったり、「プロ野球ニュース」が流れる中華屋でひとり五目かたやきそばと餃子を食って事務所にもどり、朝までかかってバブリーな原稿書いたり。

自殺されちゃった僕」「麻薬とは何かー『禁断の果実』五千年史」などの著者・吉永さんの小説は、現時点ではウィッチンケアでしか読めません。小誌では頁数の都合もあって短編をお願いしていますが、しかしvol.2掲載作「ジオイド」、そしてvol.3掲載の「ブルー・ヘヴン」とも、もっと大きな物語へと拡がりそうな予感に溢れています。この分量じゃまだまだ書き足りていませんよね、吉永嘉明さん!






 その後も、五感の「曲がり感」はいっそう強くなり、とびきり派手な無限の幻覚の世界を彷徨う。でも、時々ハッと正気に戻る。そういうときはブっ飛んでいる自分を見ているもう一人の自分がいるかのようだ。そのもう一人の自分が「これはちょっとヤバいぞ」と言うもので、幻覚と正気に挟まれて僕は混乱した。
「小川はずいぶんキテるみたいだな」
 僕の様子を見て、コージ以外の連中がおかしそうにクスクス笑っているのが、幻覚の合間にちらちらと目に映る。コージは静脈に注射針を差し込んでいる最中だった。みんな僕ほどサイケにはキマっていないようだ。「ロウソク奇麗だよね」なんて、ノンキなことを抜かしている。微塵の余裕もなくなって固まっている僕を心配する気持ちなど毛頭ないようだった。
(こいつらは友達じゃない。[ヤリ仲間]なんだ。)
 それまで漠然としたフレンドシップを感じていたっていうのに、突き詰めれば「アカの他人」だってことが分かってしまったのだ。でも、そんなことは別段ショックじゃなかった。世の会社員だってアカの他人とよろしくやっているだろう。
 問題は、すっかりインナートリップして[自分の世界]にはまり込んでしまった僕が、自分の心の中に孤立してしまったということだ。こうなったら誰も助けられない。自分でなんとかするしかない。
[太平洋ひとりぼっち]
 ふと、昔観た映画のタイトルが脳裏をかすめる。
 アップアップの状態でまた時計を見る。1時間は経ったつもりでいたのに、3分しか経っていない。インフィニティという言葉が身に染みる。僕は考えるのを止めて、努めて幻覚の世界に身を任せるようにした。


Witchenkare vol.3「ブルー・ヘヴン」(P084〜P097)より引用/写真:徳吉久
http://yoichijerry.tumblr.com/post/22651920579/witchenkare-vol-3-20120508

Vol.14 Coming! 20240401

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