小誌の校正と組版も手がけてくださっている大西寿男さん。昨年はあの石原さとみ選手主演のテレビドラマ「地味にスゴイ! 校閲ガール」が人気でしたが、大西さん、「けっこう楽しんで見ました(笑)」と、やさしい眼差し&懐が深い! あんなやついねーよ、と言っちゃったらおもしろくもなんともない/はい、私もコンプリートしました(「逃げ恥」とセットで慌ただしい秋の夜長だったなぁ)...でっ、「校閲ガール」を見て自分が2004年にノベライズを担当した「ウォーターボーイズ2」というドラマのヒロインが同選手だったことを唐突に思い出したりもして、えっ!? あの頃はまさか後にこんな怪/快優さんになるなんて、とびっくり!!
さて、寄稿者・大西さんの今作は、去年暮れに文芸誌『革』26号にて発表した「太一のマダン」の続編です。舞台は昭和40年代の神戸〜ちゃぶ台にどかっと座ったおとうさんが瓶ビールの栓を抜いて喉を潤すような時代の話。小学校二年生の太一は学級委員に選ばれましたが、教室では<ゆうべテレビで見た『タイガーマスク』がどれだけすごかったか、地上最強の悪役〝赤き死の仮面〟登場の衝撃を実演つきで騒いで>しまうような、昭和な言いかたをすると、腕白な男の子。
副委員長に選ばれた岩崎悦子がいいんです! 太一は淡い恋心を持っている...というか、小学生の頃はたいがい男子より女子のほうが大人びていてクール、っていうか、これも昭和チックに言うと、おしゃまさんとかおませさんとか、その感じがさり気なく、でも細やかに描かれています。男子は、社会人になってすぐの同窓会に出席する動機の半分くらいは、岩崎悦子みたいな女子の〝その後〟を目視確認したいから、ではないかな(※個人の感想であり同意を促すものではありません)。2人が湊先生に怒られて廊下に立たされるシーンは、まるでデートのようにドキドキさせられました。<悦子は涼しい顔で、真っ直ぐ前を向いて立っている>...いいなあ。
冒頭と最後に出てくる神社。太一にとっては大事な場所のようで、本篇だけを読むとちょっと謎も残ります。そこは、ぜひ大西さんに続編を書いてもらって...もしこの物語が青春大河として膨らんだら、きっと岩崎悦子は太一にとってのFemme fatale、なんだろうな。ぜひぜひ、平成の時代までの2人の成長を語ってください!
そんなわけで、岩崎悦子は二年三組四十三人の中で、かなり浮いた存在だった。去年、小学校入学のさいに東京から引越してきたこと、家が庭つきの一戸建てで、お父さんが銀行勤めのサラリーマンであること、お母さんが自宅でピアノ教室を開いていることも相まって、アパートや長屋の子どもたちが通う真しん栄えい小学校にあって、くっきりと異彩を放っていた。
悦子が女の子の仲よしグループの会話に入ろうとして、ろこつにイヤな顔をされたり、休み時間にぽつんと席で本を読んだりしている姿を見かけるたび、なぜか太一の胸はキュンと音を立てるのだった。
ウィッチンケア第8号「朝(あした)には紅顔ありて──太一のマダン」(P104〜P109)より引用
https://goo.gl/kzPJpT
大西寿男さん小誌バックナンバー掲載作品
<「冬の兵士」の肉声を読む>(第2号)/「棟梁のこころ──日本で木造住宅を建てる、ということ」(第3号&《note版ウィッチンケア文庫》)/「わたしの考古学 season 1:イノセント・サークル」(第4号)/「before ──冷麺屋の夜」(第6号)/「長柄橋の奇跡」(第7号)
http://amzn.to/1BeVT7Y
Vol.14 Coming! 20240401
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