2011/05/24

WTK2寄稿者紹介12(吉永嘉明さん)

吉永嘉明さんとはドライカレーを食べながら打ち合わせをしました。

吉永さんの著書「自殺されちゃった僕」は数年前に単行本で手に入れ一晩で読了...その後、文庫版も買い直し。というのも、文庫版に新たに加えられた解説(あとがき)は精神科医の春日武彦氏が書いているのですが、私はかつてこれほど著者を酷評している文章が同載された本を他に知らない。そこまで言うなら解説なんて引き受けなきゃいいのに、というのが最初に私の抱いた印象、でもいまでは同載されていることがこの本の...mmm、言葉選びが難しい...“魅力”のような気もしたりして。幻冬舎アウトロー文庫の編集者のセンス、恐るべし!

「本書の原稿のダイジェスト版をある出版社の女性編集者に見せたことがある。/彼女は『私は早紀さんを知りません。そういう他人の立場から言うと、この原稿に書かれている早紀さんを好きにはなれないですね。オヤジに依存しバブルに踊り、生きにくくなったら死んじゃう。はっきり言って同情できません』/そう、冷静に見れば早紀はとてもわがままだった。/でも、彼女がわがままであっても、僕の愛は変わらないのだ。どんなに自分勝手であっても、僕には『かわいい早紀ちゃん』なのだ。女性編集者が冷静でいられるのは『愛』がないからだ。」(「自殺されちゃった僕」文庫版P168〜P169より引用)

上記部分について、春日氏の解説は「わたしも女性編集者と同意見」としたうえで、「ここで愛を持ち出してしまったら、もはや『ああそうですか』としか答えようがないではないか。まともな物書きであったなら、愛などという身も蓋もない言葉は持ち出すまい。」と...。しかし、私は「自殺されちゃった僕」のなかのこの文章にやられてしまったのです。吉永さんって、きっとむかし観た「ラスト・オブ・モヒカン」のホークアイ(ダニエル・デイ=ルイス)みたいな男にちがいない! それで、吉永さんの友人であるWitchenkare vol.2寄稿者・木村重樹さんに熱烈アピールしまして...それで、ドライカレー。

吉永さんが寄稿してくれた「ジオイド」は、ご自身初の書き下ろし小説。「もし小説書くなら石田衣良みたいなのね、って知り合いの編集者にはまえから言われてたんだけど...」なんて言っていた吉永さんから送られてきた原稿を、私はちょうど定期検診だったので病院の待合室で読みました。出がけにプリントアウトしたA4横書きの文字を追いながら、ちょっと、ドキドキした...これが文才ってものなのか、と。そしていまは、この物語の続編がたまらなく読みたい気持ちです〜。


「ちょっと話変わりますけど私、高森さんのタイトルとかリードのつけ方が好きなの。例えば、この間編集してた快感特集のムックの中で『おもらしの快楽』ってあったでしょ。あそこでサブタイトルに『ときにはあきらめちゃえ!』ってつけるなんていいなと思ったの」
 キミの言葉に僕は少し気恥ずかしさを覚えた。ふと鶴田を見るとジョイントを巻きながらにやにやしている。僕は少し照れながら言った。
「鶴田には異論があるようだよ」
「まあ、一口に本っていっても傾向はさまざまだし、俺と高森が作る本はまったく別物だからな。比べられないよ」
「どうせ偏差値が違うっていうんだろ。そう言えばみどりさんは、鶴田と同じ会社なんですよね。どうですか、彼、ちゃんと働いていますか?」僕は言った。
「そうなんです。先輩なんですよ。でも彼って社内では変わり者なんですよ。あんまり会社にもいないし」
 僕は、頷いた。
「そりゃあそうでしょ。インテリのくせに僕なんかと遊んでいるようじゃね。そう言えば今日の面子は、僕以外はみんなインテリだね。ハナにかけないから別にいいんだけどさ」
 すかさずキミが言った。
「そういう高森さんだって、ぶってないだけで独自の感性のひらめきには感心してるんですよ」
「あんまり理解者は多くないんだけどね。ただインテリには家庭内において言わば免疫みたいなものがある。父と兄が東大(ケッ!)だし。だから話すのには慣れているんだろうね」
 またもやキミが言った。
「高森さんの仕事のいいところは、けっしてインテリには作れない本を作れるというところ。あまりにも激しい思い込みが暴走した時でも言ってることは間違ってないんですよね。ちょっと極端ではあるけど本質的。私は、自分がそういうタイプじゃないので、ちょっと尊敬してるんです」
 僕はそんなに話し込んだこともないのに、キミが僕のことをかなり理解していることにちょっと驚いた。しかしまあ理解されるというのは悪くない。それだけ関心をもってくれているということだから、やっぱり嬉しいものだ。
 僕は事務所備え付けのCDラジカセでジャーマン・トランスをかけた。僕も鶴田もジャーマンが好きなのだ。ジャム&スプーン、スヴェン・バース、コズミックベイビー……。
「これはなんて言う音楽なんですか?」キミが僕に聞いてきた。積極的に興味を示す表情をしていた。
「ジャーマン・トランスって言って、ゴア・トランスが出てくるちょっと前にヨーロッパのレイブ・パーティなんかでかかっていたものなんだ。基本的にはボーカルの無い4つ打ちのダンスミユージックなんだけど、ハイハット音の泣き音色が心の琴線に触れてジーンとくるのがたまらない快感なんだ。みもふたも無い言い方をすると、LSDを摂取して踊ることを前提とした音楽だね。これはちょっと分かりづらいだろうけど、ジャーマン・トランスの曲は〈まがっている〉んだ。LSDが入っていると、その〈まがり〉にシンクロして脳をもってかれて大変なことになるんだよ」

〜「Witchenkare vol.2」P152〜153より引用〜

Vol.14 Coming! 20240401

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