2023/05/01

VOL.13寄稿者&作品紹介09 すずめ園さん

前号(ウィッチンケア第12号)への寄稿作「人間生活準備中」では、出雲にっきさんとの自由律俳句ユニット「ひだりききクラブ」結成以前のご自身について、かなり率直に綴ったすずめ園さん。書き切ったことで、ある意味では“身軽”になれたのでしょうか。今号には新たなチャレンジとなる、書き下ろしの掌編小説を届けてくださいました。「惑星野屋敷」というタイトルの、読後の余韻が心地好い一篇。バス通学をしている「わたし」(樹ちゃん)が遭遇した、些細なできごとを描いているのですが、しかし個々の事象は組み合いそうで組み合わないパズルのように存在していて、そこに「わたし」の願望や少女らしい想像力(妄想力?)が絡んでいくと、日常のありふれた風景が白く霞んでいって...mmm、この幽玄な世界観は、ぜひ本作を実際に読んで味わって欲しいと思うのであります。...それにしても、いったいどこの町の話なのでしょう? 登場する雑貨屋さん、作中では「住宅街の真ん中にひっそりとあった」と説明されていて、たしかに田舎よりもむしろ都心のエアポケットみたいなところに、そういう店は人知れずありそう(昭和の頃からずっとそこにあるのに認識されていない、みたいな)。


 とても丁寧に言葉を選んで紡がれた作品、だと感じました。ただストーリーを追うため、みたいな読みかたをすると、ちょっと重たい(良い意味で「重さ」を感じさせる)。乾いたガーゼではなく湿り気を帯びたガーゼみたいな言葉の質感、とでも言いましょうか。これは自由律俳句という「ミニマムな枠」で表現を試みる、俳人・すずめ園さんならではの作風だと思いました。このごろ巷で言われる「コスパ」とか「タイパ」とは距離を置いた、縦書きで印字された文章にふさわしい風合いがあるのです。...ちょっと楽屋落ち的な裏話ですが、本作、最初(初校段階)では2段組のレイアウトでいこうかと思っていたのですよ。でも何度か読み返してみて、いや、やはりこの作品には1段組が似合うよな、と考え直し、現行の体裁で掲載しました。

ほしのひでこさん...星野秀子さん。物語の重要な鍵を握るこの人物、いったいどこに存在しているのか。なにしろ作中でくっきりとその人物像が見えているのは、満員のバスのなかで怒り出した「スーツ姿の男」だけでして、主人公である「わたし」さえも、ふわふわと捉えどころのない感じに描かれていて...やっぱり、ご自身の目で読んでくださいね、すずめ園さんの「惑星野屋敷」。あっ、そしてすずめさんとは今月13日(土曜日)、ちょっとおもしろいコラボを開催する予定でして、これは近々、別途お伝え致します! みなさま、どうぞお楽しみに。


「占いかしら?」
 声の方向に、雑貨と同じ色の空気を纏ったおばあさんがじっと座っていた。
 まぶたに何重にも刻まれた深い襞の向こうに、ふたつの瞳がある。その中にある小さな光が、わたしを捉えていた。
 ガラス越しに目が合った時、おばあさんがほしのひでこかもしれない、と直感的に思った。
 それは運命的なようでいて、海野と話していた店を今日偶然見つけて、それがあのひとがいつも乗ってくるバス停の近くにあったこと、店名にほしのひでこと同じ「星野」が入っていることや、占い師という曖昧で魅力的な存在、それらのすべてが点と線で繋がってほしいという都合の良い願望かもしれなかった。
「可愛らしいお客さん。よく惑星野屋敷にいらっしゃってくれたわ」
「友達に教えてもらったんです。不思議な雰囲気のお店ですね」
「ええ、ここにあるものは全部あたくしが集めたり、作ったりしたものなんです」
 おばあさんは白く染まった髪の毛に、深い藍色のバレッタをつけていた。そこだけが神秘的な雰囲気を醸し出していたが、服装も地味で、まるで占い師には見えなかった。

〜ウィッチンケア第13号掲載「惑星野屋敷」より引用〜

すずめ園さん小誌バックナンバー掲載作品:〈人間生活準備中〉(第12号)


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