2016/03/20

つかみ(ノベライズ・ウィッチンケア第7号)

 ……またきちゃった、ふふ。

 嘘のようなほんとうの話の続きだが、でもこのまえ彼女が僕の部屋にきたのは5月末...なんか、早くね?

 窓から微笑んだ彼女は部屋に入り、クリップでとめた紙の束を手渡した。

「なに、これ?」
「ウィッチンケア第7号のゲラ。本は来週末くらいにはできるよ」
「は?」
「早く読んで! 言うこと聞かないと殺す」
「...なんで、ゲラ? 本になってからじゃダメなの?」
「あのね発行人が裏方系の無名人だからキラ星の如くな寄稿作のPR早いに越したことがないの。だから桜が咲くまえにきた」

 そんな...と納得のいかぬ僕を残して彼女は去った。
 まだ死にたくない僕はゲラを読み始める。

 表紙はカモメだ。写真家の徳吉久がヘルシンキで撮影。
 そのカモメ、
「世の中変わってる」
 と文字を撒き散らしている。


 ページをめくるとwords@worksとの文字。作品の言葉、との意味か。その下には脈絡のない文章の断片...そして対向面の写真は曇り空の東京。

 <目次>で、38の人名(1人増えた!)が同じ大きさで並び、各名前の下に掲載作品のタイトル。知ってる人もいる、知らない人もいる。

 松本隆の詞の世界と日本語ロック論争について武田徹が書いている。長谷川町蔵の小説は、フジロックフェスにまつわる少女の物語。インベカヲリ★は写真家と被写体の関係性についてのエッセイ。矢野利裕は、いとうせいこうの教科書に関するツイートを手がかりに教育論を展開する。ナカムラクニオ大六野礼子との共作で、日本語とフランス語の新しい可能性を探る小説を。姫乃たまの小説の主人公・平吉は、じつにいい仕事をする職人。第5号に続き国道16号線を論じたのは柳瀬博一で今回は上條淳士『SEX』と芦奈野ひとし『ヨコハマ買い出し紀行』が取り上げられている。朝井麻由美のショートショートはエッセイ等と通底しつつ新境地に挑む意欲作。企業トップにインタビューにした武田砂鉄は書き手としての懐の深さを見せつける。そして太田豊はオオタさんを主人公にした婚活の物語。野村佑香のエッセイは仕事と物語への率直な思いが綴られていて子役時代からのファンはぐっとくること必至。木村重樹はオーストリア映画『インポート、エクスポート』に託して自身の揺れる男心を語っている。オオクボキイチの小説は太陽が恋しいボーイミーツガールの世界。中野純はナイトスキップの魅力について跳ねるような文面で。三浦恵美子は長い間封印していた詩への思いを結実させた。多田洋一の小説は四半世紀の時の流れを踏まえたもの。古川美穂の小説はユーモアがありつつもジャーナリストらしい視点が見え隠れする。かとうちあきは今号で暴走モードに突入? 恋愛に関する女子力が弾けている。我妻俊樹は怪談作家としての作品とひと味ちがう深い迷宮を表現。久禮亮太は元あゆみBOOKS社長についての個人的な思い出を語る。美馬亜貴子の小説では小悪魔的女子が彼との付き合いで悟りを開く? ビートルズの曲の魅力を考察した木原正はポールの曲の共通点について目から鱗の見解を示す。出門みずよの小説は夫婦の機微を女性の心理から描いたもの。東間嶺はこの国の自殺者についてクールな視点の物語で描いた(リアルな数字が心に重い)。吉田亮人は自身の仕事である写真について歴史と未来も見据えじっくりと検証。小川たまかの寓話的な小説は夜ではなく夜明けに見える星の物語。辻本力はエクストリームな音楽愛好人間にとっての耳栓を考察した。友田聡のエッセイは人生の中間点に立った男に見える景色について。西牟田靖は自叙伝的要素も感じられる小説で学生時代を描いた。藤森陽子のエッセイは雑誌等のライターである自分の雑感を、一歩引いた立ち位置で記したもの。大西寿男は母親への思いをインタビューを交えて作品にした。荒木優太は宮本百合子の「雲母片」を論じている。谷亜ヒロコの小説に登場する若い女性は世の中への違和感を抱えつつも解決策を見出そうともがく。円堂都司昭はむかしから大好きな「オペラ座の怪人」について評論。久保憲司の小説には京都に滞在した頃のディヴィッド・ボウイの影がちらほら&ランボーの詩が眩しい。仲俣暁生の旧牟礼村訪問記は第6号掲載「1985年のセンチメンタル・ジャーニー」の続編としてぜひ読まれたし。今号のしんがり・開沼博の「ゼロ年代に見てきた風景」シリーズの3回目は世界を震撼させたあの企業、の会社説明会に立ち会った思い出も語られる。

 37篇の書き下ろし後に寄稿者やAD吉永昌生など制作関係者のプロフィールを掲載。奥付には前号までの表紙素材になった写真が配されている。

 さらに、またwords@works。その下には脈絡のない文章の断片(←これらはすべて作品内の一節/もし帯が付いていればそこに掲載されていたかもしれない)。

 裏表紙もカモメ……こんなに読み応えのある本が1,000円なのには驚いたし、ISBNで取次会社や注文方法も判明した。さらに聞いたところによると、どうやらいますぐアマゾンでBNも含め購入可能らしい。

 とにかく、これで殺されることはないだろう。ゲラを閉じた僕は窓を見つめる。ほんとうに彼女はやってきた。もうすぐ発行されるウィッチンケア第7号PRのために。

 今度はいつくるんだ? 2ヶ月後、寄稿者紹介が一段落したらまたきそうな気配もするんだけれど、いまは考えないようにしようと思う。

Vol.9 Coming! 20180401

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