2023/04/29

VOL.13寄稿者&作品紹介05 蜂本みささん

ウィッチンケアでは前号(第12号)からの寄稿者・蜂本みささん。今号にも快作を届けてくださいました。mmm...「にも」、ですよ。私(発行人)の個人的見解としては。前作「イネ科の地上絵」も、日常と不条理が混濁した、なんともいえない「蜂本さんワールド」が展開していたのですから。第13号に掲載した「せんべいを割る仕事」については、今号寄稿者・荒木優太さんが「文学+」の時評でとりあげていたり、他のかたからも状況設定がおもしろい、といった“声”を聞きました。私としては、それに加えて主人公「久野くん」のキャラづくりの独自さにも注目してもらいたいと思うのです。なんか、エンタメ系物語などでの「話の進行上で必要な役割を担ったキャラ」みたいなのとは全然違う、理不尽な職場になぜか迷い込んじゃった、みたいな人物像。


作品の前半で作者は主人公の人物像を《橋の上から川の流れを眺めていると通り過ぎていく落ち葉の鮮やかな黄色に目を奪われて、川全体を見失ってしまうようなところが久野くんにはあった》と描写していまして...こういうキャラって、つくろうとしてもつくれないんじゃないかな。邪推すれば、「久野くん」と作者には共通する「素」というか「地」みたいなもの、があって、その感受性のまま「創作上のせんべい工場でのできごと」を語っているのではないか、と。なんというか、もっと「フツーな人」がこの職場で働いても、せんべいが月や珊瑚や赤ちゃんには見えないと思う。せんべいに笑いかけられたり、なつかれたり、恨まれたりもしないと思います! このなにか異様な感覚は前号寄稿作を読んだときとも共通するものでして、つまりこれが「蜂本さんワールド」(蜂本文学!?)なのだなぁ、と。そんな蜂本さんのこれまでの活動歴は、第12号掲載「イネ科の地上絵」の寄稿者&寄稿作品紹介に書きました。ぜひ、再読してみてください。

若者のアルバイト体験談の体をとりながら、後半では経済社会的な誤謬についてもチクリと刺している蜂本さん。《買う人だって分かっているのだ。こんな大量の割れせんが自然にできるはずがない。パッケージに訳ありとか不揃いとかこわれとか切り落としと書くとよく売れて、売る方はそれでうれしい。買う方は安く買える言い訳ができて、やっぱりうれしい。理由もないのに安いと不安になる。そういう仕組みを埋めるために自分たちがいる》...このへんの乾いたシニカルさから私が連想したのは、最近のテレビでやたらと見かける、ファミレスやコンビニや回転寿司の食べものを褒めるタレントさんのことでした。あの「おいしい!」はもちろん「(○○○にしては)おいしい!」で、《そういう仕組みを埋めるために自分たちがいる》と思ってやっているんじゃないか、と...いや、自信ないな。「(○○○にしては)」なしで言ってるかもしれなくて、それはそれで怖い社会w。


 手に取って割って離す、手に取って割って離す。脳の中のある領域が目の前の単調な現実に色を塗り始める。ベルトコンベアの上を生まれたてのせんべいたちが駆けてくる。ふわふわした湯気を振りまきながら頬を焼き目で上気させ、無垢な笑い声をたてている。一匹のせんべいが久野くんの両手に飛び込んできて、くすぐったそうに身を震わせる。と、せんべいの背骨に無理な力がかかり、恐怖と驚愕でせんべいの目はいっぱいに見開かれる、嘘でしょう、どうして? けれどそれはほんの一瞬のことで、その身はあっけなく二つに裂かれ手からすべり落ちる。もはや光を映さない無数の暗い目がゴミ箱の底から久野くんを舐めている。

〜ウィッチンケア第13号掲載「せんべいを割る仕事」より引用〜

蜂本みささん小誌バックナンバー掲載作品:〈イネ科の地上絵〉(第12号)


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